コラム

AIの新たな主戦場、チャットボットの破壊力

2016年09月13日(火)16時09分

 そんなとき日本マイクロソフトから女子高生AI「りんな」をLINE上で展開したいという話が寄せられた。マイクロソフトはいずれ「りんな」の人工知能を他社に提供するつもり。なので、まずはショーケース的に、りんなをLINEでリリースすることになった。日本マイクロソフトのシニア戦略マネジャーの中里光昭氏によると、りんなのAIエンジンを他社ブランドのチャットボットに応用する実証実験が始まっており、来年には複数の企業向けにりんなのAIエンジンを提供していく見通しという。

チャットボットを生むビジネスチャンス

 ではチャットボットにはどのような可能性があるのだろうか。

 以前のコラムで紹介したトランスコスモスの例は、チャットボットではなく有人対応のチャットの例だ。しかし有人対応の対話データが十分に集まれば、いずれ有人から「有人+チャットボット」のハイブリッド型に移行し、最終的にはチャットボットで完全自動化される。この方向に進むのは間違いない。

 なので、現時点での有人対応のチャットで有効な領域は、いずれチャットボットとしても有効な領域になるものと考えられる。

 以前のコラムで紹介したような、不動産事業者への問い合わせなど、今まで敷居が高かったサービスへの問い合わせが、まずは有効な領域。ほかには、ダイエット、整形のようなコンプレックス系のサービスへの問い合わせなどにも有効だろう。

 トランスコスモス上席常務執行役員の緒方賢太郎氏はまた、チャットボットがリアル店舗とECサイトの中間のようになり、オムニチャネルと呼ばれるような顧客との接点を完璧につなぐような役割を果たすようになるという。

 transcosmos online communicationsの貝塚洋社長は、顧客獲得だけでなく顧客関係管理(CRM)にも効果を発揮するはずだと指摘する。チャットを通じて既存顧客からも苦情や感想が寄せられるようになり、顧客をつなぎとめたり、グループ分けすることも可能になる。さらには、「営業マンや支店の対応がどんな具合なのかも、本社のほうで把握できるようになる」という。

 一方でLINEの田端氏は、「チャットは、検索でも条件選択でも絞り込めないような潜在的ニーズを顕在化できる」と指摘する。例えば「母の日にいい感じのプレゼントを送りたい」という潜在ニーズがあるとする。当然ながら検索エンジンで「母の日プレゼント」「いい感じ」というキーワードで検索しても、思っているような「いい感じ」のプレゼントの提案は困難だろう。「いい感じ」という曖昧な要求を、検索エンジンが理解できないからだ。ECサイトで、幾つかの条件で絞り込もうとしても、絞り込み設定は、価格、色、ブランドなどしかなく、「いい感じ」というキーワードで絞り込めるわけではない。ところがチャットだと「お母さんは何歳ですか?」「趣味は」などという対話のキャッチボールをする中で、「いい感じ」がどのような商品を指すのかを導き出すことが可能だ。つまりチャットは、リアル店舗の店員がやってくれるような商品の絞り込みを、ネット上でも可能にする仕組みだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「ロボタクシー撤退」の米GM、運転支援技術に注力へ

ビジネス

米キャタピラー、通期売上高は微減の見通し 需要低迷

ワールド

欧州委員長、電動化や競争巡りEUの自動車業界と協議

ワールド

米高裁、21歳未満成人への銃販売禁止に違憲判断
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story