コラム

ジェノサイドで結ばれる中国とミャンマーの血塗られた同盟

2020年01月29日(水)18時20分

習と握手するスーチーの心の内は(ミャンマーの首都ネピドー) NYEIN CHAN NAING-POOL-REUTERS

<ウイグル、ロヒンギャ──少数民族弾圧に注がれる世界からの厳しい視線が、両国を近づける>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は1月17日から2日間のミャンマー訪問を通じて、アウンサンスーチー国家顧問兼外相と「相思相愛」の関係を構築した。両国は共同声明で、巨大経済圏構想「一帯一路」への協力強化を宣言するなど、多くの「互恵関係」に即した「共同事業」の具体化に着手するとアピールした。

世界最大の独裁国家の指導者である習がノーベル平和賞受賞者のスーチーと握手したのは、何も国内外の問題を穏便な手法で解決しようとしているからではない。2人がトップを務める2つの国家に世界から厳しい視線が注がれていることが、相互に接近を促したのだ。

まず、スーチーのミャンマーはイスラム系少数民族ロヒンギャを弾圧し、無数の難民を隣国バングラデシュに流入させたことで、国際的な非難を浴びている。ロヒンギャ弾圧は国連が定めた「ジェノサイド条約」に違反するとして提訴され、国際司法裁判所における審理も進んでいる。スーチーは自ら審理に出廷してミャンマーのイメージを挽回しようとしたが、「ノーベル平和賞に泥を塗った人物」が語る強弁に説得力はなかった。

「元紅衛兵」への軍部の警戒感

それでも、中国政府は一貫してミャンマー政府の大量虐殺を擁護してきた。スーチーがかつてミャンマー軍政の後ろ盾である中国政府を批判していた事実を忘れたのではなく、中国当局も明白に「ジェノサイド条約」に反する政策をウイグル人に対して断行しているからだ。

ミャンマー政府に有罪判決が下されれば、次は自分たちだと習は危機感を抱いているはずだ。そのような「呉越同舟」の危機感の共有が、2人を今まで以上に近づけたにすぎない。

今回のミャンマー訪問の成果を見てみよう。「最優先事項」は中国雲南省とミャンマー西部を結ぶ鉄道や高速道路網の整備だとされている。こうした交通網の建設で、中国政府はインド洋に通じる「中国・ミャンマー経済回廊」を掌握できる。かつて第二次大戦中に日本軍と連合国が死闘を繰り返し、日本軍が多数の死傷者を出した「インパール作戦」で大きな役割を果たした戦略ルートと重なり、これを復活させたいとの野心が中国にはある。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story