コラム

ウイグルから香港まで......中国の欺瞞政策が「火薬庫」をつくる

2019年07月04日(木)14時20分

09年7月のウルムチ騒乱後、中国政府のウイグル弾圧は加速した David Gray-REUTERS

<09年7月に発生したウルムチ騒乱から10年──辺境民族が怒り続けるのは共産党の「口約束」ゆえ>

09年夏、中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで発生したウイグル人の抗議活動が中国政府によって暴力的に鎮圧された。それから10周年を迎える今年7月5日を前に、改めてウイグルに注目が集まっている。

中国国営の新華社通信は、ウイグル「暴動」による死者は197人と報じてきた。一方、国際人権団体によれば、ウイグル人1435人以上が拘束。死刑判決を受けた9人とは別に、数百人が極秘に処刑されたという。中国政府は事件の原因は「外国の反中勢力による扇動」と主張し、当局には一切責任がない、との立場を崩さない。

責任を認めない中国から、民族問題が解決される見通しは立ちようがない。少数民族自治区だけでなく、香港特別行政区における「高度の自治」も形骸化した。中国が自国領と主張する台湾では独立志向の民進党政権の支持率は上がりつつあり、アメリカによる積極的関与も目立ってきている。

「ウルムチ7.5事件10周年」を機に、中国共産党が掲げる民族政策や自治政策を振り返ってみる必要がある。

中国共産党は1921年に結成された直後は、開明的な民族政策を打ち出していた。22年7月には、「モンゴルとチベット、回疆(イスラムの新疆)を民族自治連邦とする」と宣言。その理念を実現するためには名目上の自治でなく、分離独立権を有する民族自決の思想が欠かせない。共産党もそう認識しており、「中国とは自由連邦の原則にのっとって、中華連邦共和国を形成する」との決議を採択した。

共産党の「反動的」裏切り

27年になると、共産党と中華民国の政権与党・国民党との対立が激しくなる。国民党は孫文の思想を受け継ぎ、民族同化政策を推進。例えば漢民族を内モンゴルに入植させて、モンゴル人の草原を耕地化した。共産党は国民党の同化政策を「反動」「反革命」と非難し、モンゴル人の支持を取り付けた。

31年11月に共産党が江西省に中華ソビエト共和国を樹立。その憲法大綱に「諸民族に自決権を与え、中国から離脱して独立国家を樹立する権利を認める」と定めた。その後、国民党軍の掃討を受けて中国北部へ逃亡する際も、「チベット人の独立を支持する」とのスローガンを掲げていた。

内モンゴルに程近い陝西省延安に到着した後の35年12月、毛沢東は宣言書を公布した。「モンゴル人はコーカサス諸民族やポーランド人が(帝政ロシアから)独立したように、独立と自由の権利を有する」。毛の民族自決を容認する姿勢に感動したモンゴル人は共産党を支持し、中華民国を打倒するのに協力を惜しまなかった。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米製品への残りの関税撤廃 トランプ関税

ビジネス

世界長者番付、マスク氏首位に返り咲き 柳井氏30位

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story