コラム

宣伝、観光、不法移民......ロシアで高まる中国警戒論

2019年01月05日(土)16時40分

中国の論調を見て、ロシアは次年度に向けて歴史教科書の改訂を進めている。「極東地域は国際法に則してロシアに併合された」という内容が強調される見通しだ。「ロシアの領土はわが国民が血を流して獲得した」と、ロシア人は信じている。

ロシア地理学協会を訪れた際も、展示の端々からその信念が伝わってきた。帝政ロシア時代、近代的な学問的訓練を受けた軍人たちはサンクトペテルブルクからユーラシアの草原をひたすら東進し、日本海沿岸まで疾駆した。彼らは行く先々で民族と地理に関する綿密な調査報告を仕上げては、皇帝に献上。その後、そうした調査の跡をたどるかのようにコサック兵の軍靴がとどろき、先住民たちは征服されて「皇帝の臣民」と化す――これがロシアの近代史だった。

協会では年に1度、プーチン大統領が演説し、優れた学者などを表彰する。16年11月に地理が得意な少年が表彰された際には、「ロシアの国境には果てがない」と語り掛けることで国民を鼓舞した。

プーチンは過去のどの皇帝よりも国民と国土を熱愛している。隣国からの挑戦に対しても、警戒を解くことはなさそうだ。

<本誌2019年01月01&08日号掲載>

※2019年1月1/8日号(12月26日発売)は「ISSUES2019」特集。分断の時代に迫る経済危機の足音/2020年にトランプは再選されるのか/危うさを増す習近平と中国経済の綱渡り/金正恩は「第2の鄧小平」を目指す/新元号、消費税......日本は生まれ変わるか/フィンテックとAIの金融革命、ほか。米中対立で不安定化する世界、各国はこう動く。

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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