コラム

先進国から「泥棒」した技術で途上国支配 中国「盗用」史の舞台裏

2018年12月03日(月)18時00分

11月のAPECでも中国の覇権主義的で粗暴なエピソードがあった(APECの集合写真撮影直前の習近平) David Gray- REUTERS

<宴会で狙われた日本企業の「部外秘」ファイル。改革開放の暗部を見た筆者が説く米中対立の原点>

11月17日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーでAPECが開かれている最中、同国のパト外務・貿易相の執務室に中国政府の高官4人が乱入しようとする一幕があった。検討中の首脳宣言に北京当局の意向を反映させるため、圧力をかけようとしたらしい。警察が出動する騒ぎに発展し、APECに新たなエピソードが加わった。

9月に南太平洋のナウルで太平洋諸島フォーラム(PIF)の年次首脳会議が開催されたときも、加盟国ではない対話パートナーの中国代表が加盟国代表の発言を強引に遮ろうとした。そのトラブルもまだ記憶に新しいうちに、中国は覇権主義的で粗暴な振る舞いを再演した。

ペンス米副大統領はAPECのCEO会議で、中国が長年にわたってアメリカに付け込んできたが、そんな日々は終わったと演説。中国はとてつもない貿易障壁と関税を設けていると、トランプ米大統領の主張を認め、「輸出入の数量制限に加え、技術移転の強要や知的財産権の侵害を行い、前例のない規模の産業補助金を出してきた」と、中国を批判した。

米中二大国の動きを見て、私は1988年春の中国青海省にあるチベット高原での経験を思い出した。首都・北京の外国語大学を卒業後、母校に残って助手となった私は学生たちを連れて青海省の山奥で実習をしていた。日本の大手企業と中国の国営企業との合弁会社での通訳だ。

ある日、中国の公安当局と会社の責任者たちが来て、日本人たちを青海湖観光に連れて行くよう指示した。湖の近くには中国最大の核秘密施設があり、近づくことさえ固く禁じられていたのに、観光とは驚きだった。

「2つの巨人」に戦々恐々

「君たちが観光している間に、日本人技術者たちの書類を『研究』する」と、当局は引率者の私にだけ打ち明けた。普段、日本人技術者らは「部外秘」と記された分厚いファイルを片時も離さずに中国側を指導し、私たちが通訳していた。中国側は喉から手が出るほど、部外秘ファイルを欲しがっていた。先端技術を少しずつ学ぶのではなく、一気に丸のみして日本より儲かりたい、と中国側は夢見ていた。結局、私が日本人たちと青海湖畔で宴会している間に、中国側は「部外秘」技術を解読できたかどうかは分からない。合弁会社は3年後に破産した。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、2夜連続でハリコフ攻撃 1週間で無人機10

ワールド

シリア新暫定政府に少数派が入閣、社会労働相には女性

ワールド

タイ、対米貿易黒字200億ドルに削減模索 農産物な

ワールド

マスク氏、州裁判官選挙に介入 保守派支持者に賞金1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story