習近平「治国思想」の元ネタは毛沢東の暴力革命論にあり
今年の共産党大会で習近平は毛沢東の亡霊をよみがえらせる? Bettmann/GETTY IMAGES
<江沢民や胡錦濤の旧思想を投げ捨てて打ち出す習近平の新思想の本質は、銃口と裏切りと犠牲者に血塗られた暴君の復活なのか>
来る10月18日に、中国共産党第19回全国大会が開催される。中国の冠婚葬祭で使われる民間の陰暦(農暦)カレンダーでは、その日は大安吉日だ。
胡錦濤(フー・チンタオ)・温家宝(ウエン・チアパオ)前政権のお抱え占い師と言われた人物に数年前、首都・北京で会ったことがある。「共産党は宗教を完全に否定したって? そんなことはない。建国後の党大会は全て大安吉日に開かれている」
なるほど、「宗教はアヘン」として国民に信教の自由を制限しながら、権力者たちは一党独裁体制が千年も万年も続くよう鬼神にまですがっていたのか。
今回の党大会では、党総書記である習近平(シー・チンピン)国家主席の「治国思想」が打ち出せるかどうかが、大きな論点となっているようだ。これまで党の指導思想として、先代の胡主席は「科学的発展観」を掲げ、経済成長万能主義を排し、社会調和と環境保全にも配慮した持続的均衡発展を重視した。
その前の江沢民(チアン・ツォーミン)主席も「3つの代表」論を打ち出し、共産党は「先進的生産力の発展」「先進的文化の進路」「広範な人民の根本利益」の3つを代表しなければならないという仮説を唱えた。
習は、そのどちらにも満足しないどころか、「建国の父」と位置付けられている暴君毛沢東と並びたいという野心を抱いている。では、「毛沢東思想」とは何だったのか。
その本質はまさに暴力革命論だ。中華人民共和国をつくった以上、建国の軌跡を語るのが新国家にとって最も基本的な思想のよりどころとなる。毛は「政権は銃口より誕生する」と暴力闘争を信念とし、そのとおりに歩んできた。「農村から都市を包囲する」という戦略によって、湖南省の農村出身の毛は華やかな大都会の北京に入城し、中華帝国の玉座に座った。
毛は追随する無学の農民蜂起軍に常に分かりやすい言葉で語り掛け鼓舞した。そうした演説は性的な表現に満ち、暴力をあからさまに扇動したものだった。「地主階級を打ち倒して、脚で踏んづけよう。彼らの妻や妾たちの柔らかいベッドの上で寝そべってみよう」。
これ1972年に書かれた「湖南農民運動考察報告」の中の有名な一節で、中国で最も愛されている言葉の1つだ。
農民蜂起軍を率いて都市に乱入して「柔らかいベッド」の支配者となる――古来「革命」と呼ばれる王朝交代では、歴代の新皇帝は追随者の農民に論功行賞として必ず土地を分け与えた。だが毛は彼を支えた農民を裏切った点で単なる農民蜂起指導者でなく、共産主義革命家として評価されている。
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