コラム

チベットの僧侶も犬も大処分、中国の文化的ジェノサイド

2017年09月30日(土)13時00分

59年にチベット人が蜂起した際に中国兵にかみついたために、多くの犬が飼い主と共に射殺され絶滅寸前に陥った。ところが中国経済が発展し富裕層が現れると10年ほど前からペットとしてブームに。希少となったこの犬が漢民族の間で一時は数億円で取引されるなど、成り金の象徴となった。

征服者が被征服者を奴隷以下に扱いながら、その犬を自らの名誉欲を満たすのに使うという植民地支配の典型的な様相だ。しかしそのブームが去った今、身勝手に捨てられた犬は大量に殺処分されている。

内モンゴルの馬も受難に苦しんでいる。駿馬にまたがるのを最高の名誉とする遊牧文化のこの地で中国政府は今、遊牧民に定住を強制し、馬の放牧を禁止。代わりに草原に大規模な養豚場を建設している。草を根こそぎ掘り起こす豚は草原の砂漠化をもたらすが、中国政府は意に介さない。

冷涼な気候に適さずに死んだ豚の死体をそのまま草原に放置し、伝染病の広がりを防ごうともしない。文化的に豚を忌み嫌うモンゴル人を侮辱するために意図的に進めている政策だ、と人権団体は指摘している。

世界は不条理に満ちている。小国の北朝鮮によるミサイル発射を非難するのに比べ、大国の中国による文化的ジェノサイドの巨悪に無関心。いずれチベット人やモンゴル人の怒りが中国で爆発して収拾がつかなくなれば、国際社会にも付けは回ってくるだろう。

<本誌2017年10月3日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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