コラム

安倍元首相「暗殺」事件、「疑惑の銃弾」と残った陰謀論...問題の根幹とは?

2023年02月25日(土)18時57分
安倍元首相銃撃事件の現場となった大和西大寺駅前

安倍元首相銃撃事件の現場となった大和西大寺駅前 JoshuaDaniel-Shutterstock

<安倍元首相の暗殺事件には、なぜ「疑惑」が残ってしまったのか。今後も様々な憶測と陰謀論が渦巻くのは避けられないだろう>

週刊文春が、2023年2月16日号から、安倍晋三元首相について、「疑惑の銃弾」という記事を掲載している。最新の3月2日号でも第三弾が掲載されており、「疑惑」の検証を求める週刊文春の本気度が伝わってくる。

この「疑惑の銃弾」というタイトルは、そもそも1980年代に報じられた「ロス疑惑」についての文春記事のタイトルだった。

ロス疑惑とは、産経新聞の解説(1998年7月2日付)によれば、こういう事件だ。「昭和五十六(一九八一)年十一月十八日、米ロサンゼルスの駐車場で、元輸入雑貨販売会社「フルハムロード」社長、三浦和義被告(五〇)の妻、一美さん=当時(二八)=が顔面を銃撃され、三浦被告も足に負傷した。一美さんは意識不明のまま帰国したが、約一年後に死亡した(銃撃事件)。三浦被告は約一億六千万円の保険金を受け取った。(中略)五十九年、週刊文春の連載「疑惑の銃弾」をきっかけに保険金殺人疑惑として他のマスコミも報道を始めた」

安倍元首相の暗殺事件では、山上徹也被告が2度発砲していることがわかっている。一度に6発の弾丸が発射される構造になっており、12発の弾丸が安倍首相に向けて発射されたと見られている。

演説中だった安倍元首相は左後方から放たれた1回目の発砲に気がついて振り返った。そしてその時に2回目の発射があり、直後にうずくまるように倒れ込んだ。

安倍元首相は直ちに奈良県立医科大学付属病院にヘリで搬送され、病院での救命措置の後に死亡。同病院で司法解剖が行われた。

【動画】安倍元首相銃撃事件の司法解剖で「疑惑」が残ってしまったのは、これが原因だった

解剖によって浮上した銃弾の「疑惑」

そこで判明したのは、安倍元首相に少なくとも球体の鉛の銃弾2発が当たり、そのうち、左上腕部から入った1発が、左と右の鎖骨の下にある動脈を傷つけて失血死に至らしめたということだ。それが致命傷となった1発だが、この弾丸は発見されていない上に、体外に弾丸が出た形跡もない。

それとは別に、右前頸部の銃弾は右腕腕骨にまで至り止まったと見られており、体内からその弾丸は見つかっている。ただその弾丸が体内に入った角度が銃撃時の安倍元首相の体勢をみると矛盾しているという。

問題は次の事実だ。安倍元首相の頸部に別の銃弾が当たった形跡があるという。だがその銃弾もどこからどこに行ったのかが判然としない。記事では、こうした「弾丸」の角度などに疑惑が出ていると検証している。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、業績下方修正 フジテレビの広告

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story