コラム

賭けに負けたマクロン大統領の四面楚歌

2024年07月09日(火)14時14分

不安定な議会、不安定な政権、レームダック大統領

いずれにせよ、緩やかな政治協力連合(可能な範囲でのみ協力する消極的連立)にとどまるのは、各党間にそれ以上の協力をするインセンティブもなければ、政策面でのコンセンサスもないからだ。その結果、議会に安定的・永続的な多数派なし、という状況は変わらない。首相と内閣は、議会の不信任決議で内閣総辞職というリスクに晒され、極めて不安定な政権とならざるを得ない。

そうした状況の中で、各党は、必要に応じその都度政策で協力はするが、その実体は妥協だ。妥協して、各党が合意可能な政策のみ実行する。しかし、各党間の対立で、合意に至るのは容易ではなく、政治的な混乱と停滞がもたらされることは間違いない。

一方マクロン大統領は、内政における指導力を失って単なる調整役にすぎなくなる。レームダック大統領と言われても仕方がない。ただし、大統領専権事項である外交は別で、マクロン大統領は今後、外交に専念することが多くなるだろう。その意味で、フランス外交に大きな変化があるとは考えにくい。

極右 vs 反極右

国民連合は、最後の決戦投票の段階で失速し、議席数の面で抑え込まれた。
その要因は、反極右の大同団結・包囲網の形成(共和国戦線)と、極端な主張をする政党に不利に働く選挙制度(小選挙区2回投票制=候補者を2人に絞り込み、有権者は二者択一の中でよりマシな候補を選択)にある。

しかし、本当に国民連合を抑え込めたわけではない。投票数(第1回投票)ベースでは1/3を占め、第1位の勢いだったからだ。

ここまで国民連合が勢力を増した背景には、「極右」に対する国民意識の変化がある。国民連合が脱悪魔化したことを認め、これまでのように「極右」と見なさなくなった国民が増加したのだ。こうして、これまで「極右」と呼ばれてきた国民連合を「極右」と見なさなくなった国民連合の支持者と、依然として国民連合を「極右」と見なす「反極右」共和国戦線支持者の間で、分断が深まったのだ。

(参考)フランスの「極右」が「極右」と呼ばれなくなる日 

この「極右」と「反極右」の戦いの決戦は、3年後の大統領選挙に持ち越された。本番は大統領選挙となる。国民連合の大統領候補であるルペン前党首にとっては、総選挙で勝利とはならなかったが、最大野党のポジションは、大統領選挙を狙うには極めて好都合だ。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story