コラム

ウクライナ戦争とフランス大統領選挙の意外な方程式

2022年03月07日(月)16時15分

しかしそれよりダメージが大きいのが、2月13日に華々しく行ったペクレスの選挙キャンペーン旗揚げ集会での失態だ。パリ市内の大規模イベント会場に7,500人もの支持者を集めて、反マクロンの狼煙をあげ、選挙戦の火ぶたを切る、絶好の機会となるはずであったが、ぺクレスは淡々と原稿を棒読みするだけで、国民が大統領に期待する「国父ないし国母」のイメージとは程遠く、会場も盛り上がらなかった。インテリとの政策論議は得意だが、大衆に対する演説が下手でアピール能力に欠けるという、エリートらしい弱点を曝け出した格好だ。こうしたパフォーマンスの悪さは、多くの支持者や有権者の失望を招き、メディアだけでなく党員や党幹部からも、「失敗」との評価が下されている。

RTS5G20C.JPGペクレスの選挙集会(2月13日、パリ)

左派の失策

一方の左派陣営も冴えない。左派候補の一本化のため行われた市民による自主的な「予備選」で1位になったトビラ元法相が、3月2日、出馬断念を表明した。フランス大統領選挙に立候補するためには、特定の公職者の中から500人以上の推薦人が必要とされるが、その数に遠く及ばなかった(181人にとどまった)ため、立候補できなかったのだ。

RTS59WTT.JPGクリスチャーヌ・トビラ元法相 REUTERS/Gonzalo Fuentes


マクロン再選への道

こうした対立候補たちの相次ぐ失策によって、マクロン候補の支持率が上がり、他の候補との差を広げている。Ipsos-Sopra Steriaの世論調査によれば、3月2-3日の時点で、マクロンの支持率は30.5%に上昇したのに対し、ルペンは14.5%、ゼムールは13%に下降し、ペクレスに至っては11.5%にまで下落した。

このままいけばマクロンは、第1回投票で決まりとまではいかずとも、決戦投票では、相手が誰になろうとも、悠々と勝利できそうな形勢だ。マクロン再選への道が拓けてきた、と言っても過言ではないだろう。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、発行済み株式の3.7%・3000億円上限に

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ビジネス

焦点:利下げに向かう欧州、動けないFRB 乖離拡大

ビジネス

現状判断DIは前月比-2.4ポイントの47.4=4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story