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山本彌生|アメリカ

【ワーキングマザー】『自分らしく生き続ける4つのヒント』ミレニアム世代の家族のあり方・米国ポートランド流

Photo | Diana Delgado, CE Engineers, Inc

ポートランド近郊では、コロナ禍を過ぎた今でも、保育所での人手不足問題などの影響を多く抱えています。

育児と仕事の両立は無理、苦しいという事情を抱える日本。実際、女性が仕事やキャリアアップを考慮すると、どうしても結婚・出産に消極的になってしまう。この事実は、生涯独身割合や出生率という数字の一部分として読み取れます。

一方で、世界の最先端のアメリカ。当然、母親が働く環境、子供を預ける環境が整って。さらに、パートナーも自ら進んで100%子育てをサポート。このようなキラキラ記事を読むたびに、日本のワーキングマザーの心が揺れ動きます。

でも、それって本当でしょうか。ストレスから、自己否定感を抱えてしまうのは万国共通。

そんな一人のワーキングマザー(夫婦カップル)を通して見えてくる、男女の役割、人種・職種による差別、息苦しさ、そこからの知恵。それらはきっと、シングルペアレントやワーキングファザーにも当てはまるはず。

ワーキングマザーという言葉で、すべてを同じ土俵に上げることには無理があります。とはいえ、忘れがちな自分らしさを基本にしたヒントが、彼女のことばから感じられるはずです。

Diana at Work Doing Data Collection for an Arc Flash Study - Yayoi Yamamoto, PDX Coordinator LLC.jpgPhoto | Diana Delgado, CE Engineers, Inc

|無意識の差別からの脱出=「正直なわたし」への脱皮

工学部という男性ばかりの専攻で、クラス唯一女性。そこでの嫌な経験。だからこそ、「自分らしく、送りたい人生のために心を砕いてきた。」

そう穏やかな笑顔で語り始めるのは、エンジニアリング会社を経営するエルサルバドル出身のダイアナさん。3歳の子どもを育てるママです。

そのダイアナさんが4歳の頃、エルサルバドルで内戦が勃発。家族で国外脱出を決断し、戦争難民を受け入れていたカナダに移住をします。

「その後は、将来を見据えてアメリカに再移住を。アカデミックな環境かつ物価の安いオレゴンの町で中学と高校に通いましたが、移民の町であるカナダのバンクーバーに比べると白人ばかりで。私と同じような肌の色、ましてや移民という生い立ちの人と出会うのは皆無でした。」

その後、州内の大学に進学をします。それも電気工学専攻。

「実は、私が尊敬する大好きな父は電気技師。その仕事場の大型機械を見て、ワクワクした思い出が私の根っこになっているんです。」

英語にハンデがあっても、分かりやすい算数と科学が小さい頃から好きだったという、典型的な『移民あるある』。とはいえ、今の米国内でもやっと理系女子が増えてきた程度。通学していた当時の大学では少数派だったと言います。

「電気工学の学年で唯一の女性だったこと。とにかく、無意識の差別を日々感じながらの通学でした。」

マイノリティー女子として、工学を続けていくことに疑問を感じ続けたある日。人生観の転換が起きます。ひとりの理系の女性教授が言ってくれたことばによって。

『私は多くの場所で、唯一の女性だった。いつも一人だった。でも、だから何だっていうの。』

「いつも自分の居場所をさがしていた。いつもアウトサイダーだと感じていた。でもこの日を境に、私は『自分の好き!を素直に自分で認めていこう』。私は私、ありのままの自分として謙虚に道を進んでいくことを自ら選びました。」

大学卒業後、大企業からの誘いがあったにもかかわらず、職場として選んだのは父親が経営するエンジニアリング中小企業。そこでも、現場に出るたびに嫌がらせを受け続けます。

「現場に出ると、まだ若かった『女』の私は、まずその技術能力を疑われることからはじまります。直接、意地悪な言葉を投げられるのは日常茶飯事。でも、そんなことは学生時代に経験済みでしたから。」

いちいち落ち込まない。そう努めて強く心を保つために、常に自分に言い聞かせていたこと。

『私はいつも自分に正直で、誠実に着実に良い仕事をする。そして、期待された以上のレベルで、各プロジェクトをきっちり終わらせる』

それを日々年々繰り返しているうちに、周りの人の目と態度に少しずつ変化が見え始め、信頼と売り上げが良い方向に。しかしその矢先、リーマンショックという不況の波が世界中を襲います。

Diana and her Dad owners of CE Engineers - Yayoi Yamamoto, PDX Coordinator LLC.jpgPhoto | Diana Delgado, CE Engineers, Inc

|不況時代の代替わり、そこからの企業改革

不況にズブズブと入っていくのを肌で体感しながら、どうにかしなくてはいけない。そう考えて出した答え。それが、代替わりをしての社長就任。加えて、不況中としては異例の業務種・範囲の拡大でした。

「就任してまず取り組んだのは、行政、公共施設分野への参入でした。安定収入に結び付けるため、業務範囲を拡大。新しい分野と技術を夜中まで学びながら、新規開拓営業をかけていったのです。時間はかかりました。でも、数々のハードルを乗り越えて、今では官民半々の顧客割合に成長しています。

さらに、当時としては珍しく、従業員4名のうち3名をマイノリティー人種の女性エンジニアに。そこも功を奏して注目を浴びていきます。

男性優位で、女性の割合は10%にも満たないエンジニアリング業界。「従来型の固定観念にとらわれない。女性ならではの柔軟性と細かな作業をプロジェクトに提供することがモットー」そう言って、ちょっと恥ずかしそうに頬を赤くします。

そんなチャーミングなダイアナさん。家庭内ではどのようにバランスを取っているのでしょうか。会社を経営しながら、家庭を円滑に円満にするための知恵とはどのようなものなのでしょうか。

次ページ ミレニアム世代のワーキングウーマンからの4つのヒントと提案とは? そして、今ちょっと苦しいと感じているあなたへのメッセージ

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著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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