最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
【現地レポート】世界最大の 『Coffee EXPO』in ポートランド~全米チャンピオンからのアドバイス
| コーヒーは、『アートとサイエンスの両方を感覚的に探究できるツール』
2016年、シェア共有スペースにて、カフェ「Elevator Café & Commons」をオープンさせたアンドリューさん。
世界的に見ても、スペシャルティコーヒー、自家焙煎ブランド、カフェなどがあふれかえって飽和状態のご時世。どのように、他と差別化をするのかが勝負だ。そう話し始めます。
このような現状の中、ビジネスを押し出す方法。同時に、全米ローストチャンピオンとしてのこだわりとは、どのようなものなのでしょうか。
「原産国や品種、加工方法など、一般受けする豆を仕入れるのは当たりまえ。それに加えて、必ずニッチな少し変わった豆も必ず仕入れる。そんな購入を意識しています。
以前より、豆を分析するツール器具が、より手頃な価格で手に入るようになりました。ですから、それらを駆使して数字的に科学的にしっかりと分析を行うこと。中小ビジネスだからこそ、より良いものを作り出すためには不可欠なプロセスです。
さらに、製品や方法をより持続可能なものにする。ここは、今の時代に求められている大切な要素です。
例えば、私たちが今取り組んでいるのは、コーヒー生豆が輸入時に詰められている麻袋の再利用方法。具体的には、建築素材としての再利用の実現化に向けて動いています。その他にも、化石燃料の代わりに、電気ロースターですべてのコーヒーを焙煎する実験を重ねたりもしているんです。」
ただ単に、豆を焙煎するだけ。万人受けするコーヒーを入れるだけで売れる。そんな時代ではないようです。
新しいビジネス方法を常に試し続けること。そして、ビジネスが成長するのと同時に、自分自身も常に向上する努力を怠らない。この二つはどのビジネスにも適応できる、基本の基本だと説きます。
| 熟知、鍛錬、切磋琢磨
焙煎部門のチャンピオンになる戦いの中で一番大変だったこと。それが、競技の中の焙煎時間の短さだと話します。
時間制限は、各30分x3つ。サンプルロースト~練習ロースト~審査員用のロースト。当然、豆を完璧に仕上げるには時間は当然足らない。なので、どんな種類の豆をお題にだされても即対応できるように。自分の焙煎機で何種類もの生豆を使って、何度も練習し続けて大会競技に挑むことが求められます。
「会場の雰囲気にのまれず、大きなミスをせず、かつ技術的な要素もうまくこなすこと。プラス、当日の運の良さも必要かも。自分が練習したことのある豆が、お題に出されるかどうかで勝敗を二分しますから。
例えば私の場合、コンゴが原産という、大変珍しい豆が焙煎競技種として与えられました。で、その珍しい豆を私は『たまたま』焙煎したことがあった。
あえて、運という言葉を使いましたが、要するにいかに多くの豆を焙煎した経験があるか。熟知、鍛錬してきたか。そこに行きつくのだと体感しています。」
競技に向けて、精神的にも身体的にもきつい日々の連続。そう小さな声で語り続けるアンドリューさん。でも、そんな辛い日々のサイド・ノートとしての醍醐味。それは、世界中のカフェ、バリスタという競技者。さらにはコーヒーのプロの審査員と親交を深めることができることだとか。
「知り合いになるだけではなく、技術について情報交換をしたり。まさしく、切磋琢磨をしながら、互いに高みに進んでいくことが可能な環境。健全な関係を構築して、業界を向上させていく。そんな共通意識を持つ人との交流は、ビジネス・サービスをより強固なものにしてくれます。」
| ウイズ・アフターコロナの愛飲家、そして求められるビジネスとは?
コロナ前のポートランド、そして全米主要都市では、カフェや自家焙煎ブランドがあふれかえっている状態でした。
そこを襲ったパンデミック。ブランド事業を維持するため、生き残りをかけて、どのような取り組みを行ったのでしょうか。
「実は元々、カフェ・レストランバーという形態運営をしていたんです。でもコロナ禍で、ビジネス体系の変更を余儀なくされました。
断腸の思いで店舗を閉鎖。ロースターとオンライン販売・卸売りのみという決断を下したのです。
でもこのことで、常に変化する行政からの規制指導に、慌てて対応する労力が取り除かれました。その分、自分たちが一番得意とすることに集中して、より良い商品を作り出す時間に充てた。このことで、さらにビジネスが研磨されていきました。」
コーヒー市場は飽和状態。素人からの起業ビジネスモデルだったことも事実です。
このような社会現象が起きると、旧来のやり方でビジネスを維持することは困難です。ビジネスの大きさに限らず、既存の成功例や形態モデルというものが当てはまらなくなっています。
「これから先のことをあえて言うならば、もし生き残れたビジネスであっても、さらなる新しい段階へ向かって前進を続けていく必要性があります。
すべての面で、急激なうねりが起こっている今。時代に見合ったビジネスの変革は必須の課題です。そのためにも、試練に挑むために必要な能力と知識を向上させる努力を惜しまない。これは言うまでもありません。」
| あなたへの小さなアドバイス
最後に、新しいビジネス思考、人間心理からのビジネスの成功など。そんなキーワードと共に、アンドリューさんから皆さんへのアドバイス。
「例えば、起業という形態でビジネスを始めるのは比較的簡単かもしれません。でも、コロナ後からの新しい段階。そして原価や経費高騰の今日。
先ずは、どうすればコンスタントに、持続的に利益を出せるようになるのか。その土地にあったビジネスモデルや新しい策が、さらに必要になっています。
さらにもう一つ。そこそこ美味しいコーヒー vs ものすごく美味しいコーヒー。実は、顧客がどちらを選ぶのかを判断する際には、それほど深く考えずに習慣や感覚で選んでいたり。その日の気分や環境で選んでいたりするという事実。ここも注目すべき点です。
コーヒーを例としましたが、これは多くの顧客サービス業に当てはまります。
ですから、あなたが提供する商品・プロダクト・市場上に、全面的に特色を押し出すような独自性の強いものを作り上げることをお勧めします。もちろん一般受けする部分はしっかりと残しつつ。
これは、すでに言われ続けていることです。でも、まだやり方や意識が薄すぎると感じます。」
人の嗜好、経済、文化、流れが変わっている今。だからこそ、顧客(人々)が何かを求めているのかを再度調べる必要があります。コミュニケーションを取りながら、アンケートをお願いしながら、新しく変化をしているニーズ・声にしっかりと耳を傾けることが大切です。
「もしかすると、想像していたこととは違う声が聞こえてくるかもしれません。あなたが良しと考えてきた商品、ビジネス・サービススタイルでは(すでに)ないのかもしれません。
でも、もしそれらを顧客が望んでいるモノ・コトであるなら。加えて、あなたが実現できる可能性が少しでもあるなら。
心と頭を柔軟にして、試してみる時なのかもしれませんよね。」
時代と思考、そしてテクノロジーの流れが、恐ろしいぐらい早いうねりと共に渦巻いている今。
自分の情報源をアップデートしていかないと、無用に不安にかられてしまいがち。かといって、世の中に溢れている情報のすべてを知る必要性もないと感じます。
先ずは、あなたにとって必要で有意義な情報に集中して得ていく。すると、心に平安が宿りやすく、バランスもとりやすくなる気がします。
情報の吸収と誠実に人と深くつながる大切さ。その両方を得ながら、豊かな挑戦を続ける。このことが、いつまでも輝き続ける人の秘密なのかもしれません。
来年2024年EXPOは、大都市シカゴで開催されます。
次回のテーマは、以前からリクエストの多かった『女性の結婚・出産子育て・キャリア維持』。アメリカって進んでいるんでしょう? ジェンダー平等でしょう? 男性中心の業種への就職での苦労。結婚出産を機に起業を決意したマイノリティーの女性から、日本との相違やヒントを探ります。 6月中旬掲載です!
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)