最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
2022年 新たな時代、ポートランド 4つのP『イノベーション』の飛躍
コロナ禍からの経済回復が期待されていた昨年末。しかしながら、さらなるオミクロン株数上昇によって、長引くコロナ禍の不安が払拭されないまま、2022年を迎えました。
この2年間で、社会、くらし、そしてビジネス環境は一変しています。さらに、企業に求める価値や技術、商品も以前とは大きく変化をしています。
このように、外部の環境が日々刻々と変化する今。どの企業も自社の中核となる強みを活かすことはそのままに。同時に、柔軟かつ迅速に新たな価値を創造することが求められている時代です。
特に今年からは、時代と社会の要請に応える新たな技術やビジネスが次々と生まれ、台頭することになるでしょう。どの業界でも、新しい知識、順応性、そして小さなイノベーション無しでは頭打ちになる。このことは先進国の常識になりつつあります。
さて、新年初の記念すべき記事はナイキ。ポートランド郊外に本社を構え、世界を牽引するオレゴンブランドです。
『革新的な技術やアィデアを発信し続ける』。このコンセプトを元に、コロナ禍に完工した新イノベーションセンター。そこから、企業内部の新しい取り組み、2022年からの新しい働きかたを掘り下げます。
実は、ナイキとは長い付き合いの筆者。日本法人立ち上げの際、初代支社長の麻布の一軒家に、1980年代初頭に出入りをしていたことから始まります。(当時は、スニーカーという言い方ではなく、運動靴という表現をしていました。)その後、筆者がポートランドで起業してからも、多数のプロジェクトや国際会議に携わったり。日本メディア初となる社内独占インタビューを日本のTV番組用に撮影をしたり。又、創設者のフィル・ナイト氏とプライベートでお付き合いをしているのも、何かのご縁の延長なのだと感じています。
そのフィル・ナイト氏の言葉。「ナイキの人々、そして彼らのユニークでクリエイティブな働き方こそが、ナイキを特別なものにしている。」この表現からわかるように、大企業の取り組みと進化が、中小企業さらには消費者側へも影響していく。
このオレゴン発の世界的企業から、一個人としての私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。独自の取材から見えてきた、新しい時代を進むナイキの取り組みをお届けします。
|Just Do It. ナイキの流れ
ナイキは、1972年オレゴン大学の陸上のコーチ、ビル・バウアーマンとその教え子フィル・ナイトによって創立されました。ランニングシューズの行商からビジネスを開始。紆余曲折を経て、今では世界のスポーツビジネスを牽引する大企業に成長、発展し続けています。その歩みは、『シュー・ドッグ』として書籍発行され、世界のビジネス書のベストセラーにもなりました。
現在、ポートランド郊外にある本社(ワールド・ヘッドクオーター、以下WHQと表示)では、1万人以上の社員が働いています。
業務運営の特徴は、世界の動きに先行する形で、攻めのビジョンであること。同時に、削減するところはシビアに切り取り、重要な分野には予算や雇用を増やすビジネスを展開しています。加えて、数年ごとに組織改革を行って、フラットな組織を維持する。これが現在のナイキの芯の部分。すなわち、イノベーションのDNAの元となっています。
そしてこの経営方針と方向性は、スポーツビジネスだけにとどまらず、常に一歩先に行く世界のビジネスの手本にもなっています。
ところで、誰でも知っている "Just Do it." のスローガン。これは、消費者向けマーケティングの言葉だけではないとのこと。社員に対しても同様に激励をおくる。そんな意味もあるといいます。
これまでのナイキの歴史と文化との深い繋がりを元に、『恐れずに、新しいことに常にチャレンジしていく精神』が社員にも大切だと。この世界の一人ひとりが、クリエイティブであること。そして、自分の意見をきちんと発信してくことが出来るような環境作り。そんな大きなメッセージが込められているのです。
| 革新的な技術とアイディアを発信し続ける、イノベーションセンター
さらなる事業拡張とイノベーションを円滑に行う必要性を感じたWHQ。2015年から、キャンパス拡大と複数の新しいビル建築計画が開始されます。コロナ禍での遅延はあったものの、ついに2019年完工をします。
中でも、際立って目につく建物。それが新施設ビルの一つである、レブロン・ジェームス・イノベーションセンター。プロバスケットボール、LAレイカーズのスーパースターから命名されました。彼のプレイを表現する高性能な身体能力と運動能力から着想を得て、スピードという概念を表現したデザイン。イノベーションのDNA的アイコンとなっています。
この巨大な建物は、70万平方メートル(東京ドーム約15個分!)。 当然、建築の環境にも十分な配慮がいたるところに。オレゴン州内、最大規模のLEED(環境性能評価システム認証)の最高プラチナ建築認証を受理。パッシブ換気、中央アトリウムからの採光、太陽光発電設備。さらには、オレゴン産の弾力性のある材料を使用。建物全体の節水戦略も、持続可能目標をさらに後押ししています。
また、各所にも意味があります。例えば、ビルの最上階にあるスポーツリサーチ・ラボは、イノベーションへの継続的な献身を表現。メイン入り口から5mの高さにあるワッフルスラブのベースは、初期のナイキシューズの象徴であるワッフルパターンにちなんだもの。さらには、研究開発と商品試験のためのランニング用トラック、フルサイズのNBAサイズのバスケットボールコート、人口芝のトレーニングピッチなどが廻りに備えてある総合ビルとなっています。
ここではつい、建造物というハードの部分に注目しがち。でも忘れてはいけないのは、本質であるソフトの部分です。以前は、WHQの巨大敷地内にある各ビルに分散されていた、総勢700名程のイノベーションに関連する社員。しかし、このイノベーションセンターによって、その人数を一気に集結することが可能になったのです。
一か所に集まることによって、アイディアをより自由に交換することが可能になり、同時に時間と労力の節約にも繋がります。新しい考え、モノ・コトが自然に、偶然的に、そして必然的に湧き上がるような設計がされています。〚但し、現在はコロナ禍のためリモートワークが主流となっています。〛
同時に、環境問題にも力を注いでいます。それが、「Move to Zero」という理念と活動。地球環境とスポーツの未来を守るために、二酸化炭素と廃棄物排出量ゼロを目指す包括的な取り組みです。
所有施設と運営施設において、2025年までには100%再生エネルギー稼働。2030年までに二酸化炭素の30%削減。それ以外にも、具体的な策が練り込まれています。
①素材:全てのフットウェア生産過程から生まれた、廃棄物の99%を再利用
②プラスチック:年間10億本以上廃棄されているペットボトル。ジャージやフライニットシューズのアッパー用の糸としてリサイクル
③シューズのリサイクル:「Reuse-A-Shoe」と「ナイキグラインド」という廃棄プログラムに基づき、陸上のトラックや遊技場の路面などに使用
地球環境レベルで考えた時、一つの企業だけで出来る範囲は限られています。ですから、共通ビジョンを持つ多種多様な企業とのコラボを積極的に行っていく。加えて、二酸化炭素の排出量などのプロトコルを管轄するために、共通の第3機関を導入する。このような取り組みも、すでに開始されています。
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著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)