最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
教育からできること、ポートランド地域の格差と多様性への問いかけ
| ニーズにあった良い教育を提供したい vs 入学者減少問題
生徒のことを第一に考えて、サポートをしてきたい。しかしながら、現在のコロナ禍の影響から、ほぼすべての全米公私大学は財政的に苦しい状況にあります。
特に新学年度の2021年からは、多くの高等教育機関が直面する『入学者減少』は避けられない問題です。コロナ禍により、進学をあきらめる高校生が急増しているのも辛い現実。家庭の金銭事情の変化、企業採用数の減少、また、アルバイトがなくなり学費を捻出できなくなった等。これらの理由は、日本とほぼ同じです。
このことが意味すること。それは、教育機関本体の深刻な財政赤字が発生するということです。今、全米の高等教育機関では、その対応策と取り組みに力を入れざる得ない状況となっています。
多くの北米の短大・大学では、大学運営に必要なコストの上昇と収入の減少というバランスを崩した問題を抱えている真っただ中。そして残念なことに、この問題解決は決して短期間では解消できないと言われています。
「これから、少しずつパンデミックから脱出していく方向に社会が動いていきます。そして経済が、少しずつでも良い方向に動いていくはず...そう楽観的でありたいです。しかし同時に、シビアな現実を見極めて具体的な案を考え、さらに前進して学校を運営していかなければならない。その務めが私にはあります。」そう静かに語るカリンさん。
入学者数が増えていく方向に転じていけば、教育機関の収入も増える。それによって、幅広くより良い教育を多様な方向に提供することが可能になる。しかしそれには、多くの時間を要することは明白です。
と言いつつも、今年の日本では、高校卒業後すぐに就職を希望する高校生が去年より減少しているという数字が出ています。コロナ禍の就職不安から、進学を希望する生徒が増加しているというのが理由です。それに伴って、この不景気の最中、日本の進学に必要な資金の問題は避けて通れません。
そしてそれは、このアメリカでも同じこと。日本同様、『将来の重い足かせ』となっている現実があります。
| 現在のアメリカ教育費事情
大学進学のための資金調達は、長年アメリカの多くの家庭で、ごく当たり前のように行われてきました。つい最近の調査によると、55%の家庭が今年2021年度には、学生ローンを組む予定だと答えています。
ローンを組む事を決めた家族が良く言うセリフ。それは、「せっかく合格したのだから。進学という夢をかなえるためには、ローンを組むしかない。」
しかし、ローンを貸し出す会社側は冷静にこう言います。「ちょっと待ってください。例えば、私立大学の4年間に必要な教育費の平均3000万円という額。そして、ここに生活費が加算されます。それをどうやって支払い続けていくのか、その策はありますか。入学前の今の時点で、それをしっかりと考えてください。親御さんがローンで払っていくのですか。それとも、お子さん本人が学校を卒業後、35年ローンで支払いを続けていくのですか。そして、絶対に忘れないで欲しいこと。それは、アメリカにおける学費ローンは、なにがあっても個人破産申請が出来ない、唯一のローンなんですよ。」
卒業後直ちに、少なくとも10年間働き続けることを固く誓っている。または、なにがあっても職を得る。ということであれば、多額のローンを抱えても高等教育を受ける意味はあるでしょう。
もちろん、私立に比べれば公立のコミュニティー・カレッジはだいぶ低い授業料設定になっています。とはいえ、その分、収入も減額されている家庭が多い。そんな彼らが、どのように授業料を捻出するのか。それも大きな問題となっています。
現在の風潮として、諸々の家庭状況からローンを組まずに教育を受けて2年制の短大を卒業する。そして、就職をするという道を選ぶ学生が増えているのにも納得がいきます。そして働き始めた後、キャリアのためにより高い教育が必要になった場合に、そこで4年制に編入する。そう考える人が増加してきたのも、今のアメリカ教育事情と社会情勢を反映しているのではないでしょうか。
中流下層から低所得層、移民や有色人種の学生にとって『教育を受けたい。でもお金がない。』という問題は想像以上に切実なものです。そしてこれは。アメリカだけの問題ではありません。カリンさんは、さらにこう続けます。
「教育変革には、献身的で熱心なリーダーシップが必要です。変化の創造と管理、成功に導くためのチーム作り、社内外の関係者との関係やパートナーシップの構築、コミュニティのニーズの評価と対応などが不可欠になってきます。
この激しく流動する時代に、学校をそして地域教育をリードするため。私は、より具体的に考え継続的に働きかけていきたいと心から思っているのです。
現在の地域教育に求められる社会的正義をしっかりと把握すること。そして、成功へと導くことに特化するプランニング。そこに必要な、指導力と行動力が不可欠だと確信しています。」
今の時代、風潮的に『平等』と謳うことは、以前に比べて容易いことになってきました。しかし、表面だけを謳っても現実は変わりません。
「それぞれの土地には、多くの才能と能力があるはずです。そんな学生一人一人が、その地域の経済の原動力となっていることを忘れてはいけないのです。」と、人を包みこむ微笑みのカリンさんは、そう締めくくりました。
豊かさとは、社会との繋がりを感じて安心できること。生活の安定化があること。そして、多様な生き方が認められること。今の時代、『コトが少しでも豊かに運ぶようにする』努め。そんな小さな意識が、より一層求められているような気がします。
あなただからできる努めと生き方は、どこにありますか。
「本、コト、ときおりコンフォートフード」
カリン|she/her|クラーク・カレッジ学長
言語を越えたコミュニケーションの築き
人間関係を良好にするには、よく話をし、相手の文化を受け入れることです。ポートランドの教育繋がりで、大阪、京都、出雲を訪問する機会があり、すっかり日本の文化が好きになりました。優しさは全ての基本。言語というコミュニケーションツールを越えて、相手をいとおしく思うという心。それが、豊かな社会を作るのではないでしょうか。
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)