最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
ポートランドは、「米国で一番住みたい町」...だった?
|でもやっぱり、失敗から学んでやり直そうとする この町が好き!
2000年初頭から、日本国内からも大いなる注目を集めたオレゴン州ポートランド市。
南のカリフォルニア州ロスやシリコバレー、北のワシントン州シアトルという有名大都市の間に挟まれた、アメリカ西北部の白人が約80%を占める中規模都市。ステレオタイプのアメリカ人とは少し違う朴訥とした雰囲気は、地場産業の林業(木こり)の名残とか。
『2011年・最も住んでみたい町』『2012年・最も環境にやさしい都市』と数々の一位を獲得。多くのクリエイティブ職が移住したことも影響して、新しいポートランド文化の発展に拍車がかかりました。
でもこの5年位、いたるところで耳にするセリフ。
「今のポートランドって、住みにくいよね...」
2019年迄のプチバブルによる物価、不動産高騰。でも給与は頭打ち。加えてアメリカでは、唯一個人破産が認められない「長期の多額学費ローン」にがんじがらめ。そんな20代から40代の人たちの生活は、つらく苦しいものがあります。
そんな、今のポートランドに関しての "プロパーな情報"。最近の日本語メディアでは、あまり取り沙汰されてきませんでした。正直、正しいというか現実のありのままの情報を伝えるということは、なかなか難しい。でもしいて言えば、ポートランド発の環境情報は2017年位で止まっているのかもしれません。
【この頃のポートランドと発展と失敗については『町作りの王様ポートランドは、なぜすごいのか調べてみた』を。会話形式に、わかりやすく説明がされています。】
|女性!アジア人!持続可能な起業って?
さて、そのポートランドに25年間生活をしている私。当時としては珍しかった、ダブルマイノリティー(有色人種かつ女性)として起業をしました!なんて書くとカッコ良いのですが、赤面しすぎて固まりっぱなしの日々。知らなかったビジネス流儀が、ありすぎ!
男性中心 の旧式の厚い壁。アメリカ流の自己アピールの取り違え。敬語的な英語表現やその言い回し。アメリカ流根回し。強く出れば打たれ、謙虚に出れば会議で無視され。あっ!『女性が入ると会議に時間がかかった』から無視だったの?
そんな数々の失敗と女性起業家としてのサバイブ方法から、物事や周りの人を多角的な視点で見るという習慣が身についた私。それは外国人・アジア人への無言の差別に対してだけではなく、女性起業家への偏見(意識的・無意識的)に対するやり切れない思いからです。
実は、外国人がアメリカで起業すること自体は、それほど難しいことではありません。でも、外国人の女性が起業をして継続的に収益を上げていくことは、想像を絶する険しい道のりです。
『あとどれくらい 泣いたのなら 強くなれる~』と、外れた音程でそのフレーズだけ毎日リピート。その中で、少し逆のコンセプトをいくつも想像することによって、本質が見えてきたのです。
「好奇心を持ち続けて、広い分野を学び続ける。分けへだてなく、実直に。自分を成長させていくことに心を向ける。」特にこの実直というのは、長年経営をしているポートランドの人の共通点。それは、他の大規模都市と比べて大企業が少なく中小企業が大半を占めていること。すなわち、起業や持続可能な中小ビジネスには、切っても切り離せない大切なものだからです。
日々打たれながらも地道に努めていると、自然とLike-minded People* 自分と価値観が近い人と交わうことを意識するようになっていきました。それは人種、性別、宗教というバイアスを超えた信頼関係の築き。影で足を引っ張るのではなく、切磋琢磨する誠実な協働の関係作りです。〚*共通の価値観や人生観を持つ個人との繋がり。数を増やすだけの仲間作りや群れることとは違います。〛
日々で会う人と誠実なコミュニケーションをとり続け、それぞれの人との心情が重なる中で仕事を120%+で務めていくと、仕事の範囲も種類も広がっていきました。
そして、アッ!と思い出したのです。こっそりと地元メーカーの社長が教えてくれたセリフを。
「良い種をまいて、ずるをしないでちゃんと肥料をやって、毎日すべきことをしていれば Growing organically 有機的な成長に繋がるんだ。」と。
その頃からです。行政トップとの協働プロジェクトが増え、それを元にした視察へ展開。そしてビジネス特集の日本TV番組撮影や雑誌企画へと繋がり、そこから学術リサーチへと広がっていきました。今では、オリジナルの持続可能型 循環式ビジネスモデルを構築するに至っています。
要するにこんな私が、アメリカで中小企業の運営継続ができた理由。それは「ポートランドだから!」
州や市が地元の中小企業を応援する土台があって、地に足のついたローカル志向が尊重されていること。同業他社との協働システムを作って、切磋琢磨していく概念があること。そしてなによりも、人と人との小さな輪を大切にしているという共生の志向がある町だからこそです。(感謝)
【記:この数々の太字のキーワード。具体的な内容は、これから各回を追うごとにていねいに説明をしていきます。】
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
Facebook:Yayoi O. Yamamoto
Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)