イタリア事情斜め読み
イタリアに移民が押し寄せ、もはや制御不能
リビアでの紛争や治安情勢の悪化により、サハラ以南に到着する人々の数が徐々に増加している。イタリア政府は不法移民の取り締まりで対応に追われている。
ユニセフは、2014年以降今日までにイタリアに単身で入国した未成年者は10万人を超え、今年地中海では1,000人以上の子供が死亡した。イタリアに海路で入国した同伴者のいない未成年者は10万人を超え、今年だけでも6,000人であると6月19日付声明で明らかにした。
この数は、ウクライナ戦争開始時にイタリアに到着したウクライナからの未成年避難民の数はカウントしておらず、陸の国境から、"主にいわゆるバルカンルートから"到着し体系的に登録されていない難民の数は入れていない。「経済難民・不法滞在者・不法移民・密入国者」と「戦争避難民」を一緒にしてはいけない。
最も危険なルートの一つである中央地中海ルート沿いだけでも、2014年以降、2万1000人以上が命を落としており、今年だけでも1000人以上が命を落とした。その多くが少年少女の未成年者と女性。密入国移民の背後には、あらゆる段階でジェンダーに基づく暴力を含む搾取に最もさらされているカテゴリーでもある。
今年2023年1月から5月までに4万9000人以上が、そして、6月23日までの最新データによると5万9,767人がイタリアに上陸した。
前年同期は約1万9,000人だった。
イタリア内務省自由移民局が編集した移民の上陸と受け入れデータによると
(出典:その後の統合の対象となる公安局の公式データ)
その国別内訳は、
コートジボワール国籍 7,574人
エジプト国籍 7,038人
ギニア国籍 6,374人
パキスタン国籍 5,915人
バングラデシュ国籍 5,754人
チュニジア国籍 4,086人
シリア国籍 3,527人
ブルキナファソ国籍 2,393人
カメルーン国籍 2,007人
マリ国籍 1,612人
その他国籍 13,487人
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合計 59,767人
このデータは現在移民として識別認定手続きが進行中の人のみで把握されている人数である。
当局が把握できていない不法移民や密入国してすぐに逃亡した不法入国者はカウントされていない。
また、下船した人の中で、大人の同伴者のいない外国人未成年者数は、2023年6月19日までの統計では6,481人に上った。
| 移民の出発地チュニジアと到着地イタリア
昨年末以来、船に乗り命がけで地中海を渡ってイタリアに向かう移民・難民の出発地となった最大国はチュニジアである。
伝統的に移民の通過ルートとして使われてきた「最も危険な地中海中央ルート」と言われる移動ルートでイタリアを目指してくる。チュニジアとイタリアとの最短距離はたった113kmである。
福岡県〜韓国釜山の半分ほどの距離感である。
チュニジアのカイス・サイード大統領は2月、「サハラ以南のアフリカ人が国のアイデンティティを脅かしている」と演説した。これにより、外国人に対する外国人排斥の波が広がり、移民にとってはほぼ生活が不可能になっていった。
サイード大統領がほとんどの権限を自分に集中させたため、アナリストたちは深刻な権威主義的変化と定義することをためらわない。
前回の選挙では野党が投票をボイコットしたため、投票率は約11%だった。
チュニジアのインフレ率は2桁に達し、失業率は16%を超え、公的債務は爆発的に増加し、経済は停滞している。世界銀行はチュニジアを破産寸前のレバノンと同様の状況に陥っているとしている。国際通貨基金は、19億ドルの援助を割り当てる用意があると述べているが、その金額は危機を鎮めるにはおそらく不十分である。
一方、2016年からチュニジアに住む南スーダン人移民は、仕事を失い、家も失い、「チュニジア国民が私たちを追い出し始めた」と言っている。
"ここで私たちは死ぬのです。私たちには安全な場所が必要です。それがアフリカであろうと他の場所であろうと、私たちは気にしません。私たちは去りたいのです。"
- チュニジアの南スーダン難民
チュニジア社会経済正義フォーラムのスポークスマン、ロムダン・ベン・アモール氏は、「大統領の演説後、多くの人が出発を早めることを決めた。彼らは結果をあまり心配せずに逃げた」と説明した。
チュニジアの難民たちは、国連移民局の前で何か月もキャンプを続けている約150人のグループの一員で、第三国への緊急避難を求めている。チュニジアには、移民、亡命希望者、難民を含むサハラ以南の人々が約2万1,000人いると推定されている。自主帰国によりすでに帰国した人もいる。
専門家らは、チュニジアで起きていることが地中海での悲劇の数に影響を与えていると述べている。
それが、ヨーロッパ全土に衝撃を与え続けている悲劇の始まりである。
中央地中海横断に乗り出すのはサハラ以南の移民だけではない。チュニジア人もさまざまな理由で国を離れることになる。2020年の議会解散後の政情不安、若者の高い失業率、インフレと食料価格の上昇により、ヨーロッパへの移住を夢見るチュニジア人が増加していった。
2023年1月以来、ヨーロッパへの船便の到着数は増加し続けている。そして、チュニジアの混乱から新たな不安定とテロの波が起こる危険性が高い。
欧州連合とイタリアはチュニジアに対し、国境管理のためのさらなる資金的・技術的援助を与えることで話し合いを繰り返した。
人権団体は、「チュニジアは移民にとって安全な国ではない」と主張し、欧州連合とイタリアはいかなる犠牲を払ってでもヨーロッパへの不法移民を阻止したいと考えていると非難している。
今年だけで、イタリアには5万人以上が地中海を越え、命の危険を冒して船旅をして上陸した。移民や難民からの亡命申請の管理は、何年も続いている問題であるが、制度改革に向けた新たな協定はEU加盟国間の溝を調整することに果たして成功するのだろうか?
欧州委員のイルバ・ヨハンソン内務委員は、この移民問題について「地中海の状況はひどいものです。今年はすでに700人が亡くなった。イタリア沿岸警備隊が今目にしているものは本当に素晴らしいと言わざるを得ません。彼らは今年3万人以上の人を救ったと思います。そしてNGOもいますが、もちろん程度は低いです。国家の取り組みと捜索救助に関しては、最善を尽くしていると言えます。しかし、このような危険を顧みない旅に出てしまうと、誰しもが行方不明になったり、命を落としたりする危険が常にあるため、私たちはまずこれらの危険な旅立ちを阻止しなければなりません。密航業者を阻止し、戦うことは非常に重要であるが、合法的な道、欧州連合への安全な道を提供することも重要である。」と述べ、緊急事態に日々対処しているイタリアを称賛し、他国に放っておかないようにと訴えた。
国連移住機関のアントニオ・ビトリーノ長官は、イタリアの対応について、「海上での救助に対する国家の取り組みが欠如している」と批判している。
結局のところ、移民達の到着地点は、イタリアが主な玄関口であり、最前線にあることは明確である。イタリア政府は6か月間の非常事態を宣言したばかりだ。そんな中、フランスの内務大臣が「イタリア政府は移民問題に対応できない、メローニ夫人は無能だ」と批判したこともあったが、イタリアは多大なプレッシャーにさらされつつ、非常にうまく対処していると思う。メローニ首相の出したイタリアの非常事態宣言は、もちろん国家の決定であったが、それはイタリア経営を助けるためのツールであると言えよう。
より迅速な難民の受け入れが可能となり、国内での受け入れ体制が効率よく改善される。そして、これは膨大な数の到着移民にとっても、絶対に必要なことである。しかし、重要なのは、イタリア一国だけで全てを受け止めることなどできない。決して孤立してはいけないし、イタリアにはEUの近隣諸外国からの支援は必要であるということだ。
チュニジアは現在、同国の国民だけでなく他のアフリカ諸国の国民も含め、移民や難民にとって重要な出発点となっている。そこで、
6月6日、イタリアのメローニ首相は、チュニジアに乗り込んだ。
議題はもちろん、非常にデリケートで急を要する問題である。イタリアとチュニジアの二国間相互に関連しており、地中海における移民の流れの制御と、民主主義が実質的に停止されているチュニジアの深刻な経済的・社会的緊急事態に関するものだ。メローニ首相は、チュニジアのサイード大統領と初めて対談した。
メローニ首相は、チュニジアに対し、国際通貨基金(IMF)との協定を支持するイタリアの取り組みを確認し、「予算と開発に対する全面的な支援」について語った。首相はまた、開発プロジェクトを議論するためにローマで国際会議を開催することを提案した。
チュニジアの開発援助、合法的入国枠、エネルギー投資と引き換えに制度改革と移民管理をチュニジア政府に求めたのだ。
実際、この二国間会談後、移民の流れを食い止めるために、どのような対策が講じられたのだろうか。
昨夜、ランペドゥーサ島に14隻の船が到着し、計564人がイタリアに上陸した。ボートが沈没:沿岸警備隊のCP305巡視船は、女性6人を含む44人の移民を救出したが、3人行方不明 。コントラーダ インブリアコーラ ホットスポットには現在620人の収容者。https://t.co/pjjv7FgydI.
-- ヴィズマーラ恵子 (@vismoglie) June 21, 2023
イタリアは現在、チュニジア政府および当局と協力を深め、沿岸警備隊と南部国境の両方で国境警備への支援を強化することの合意に達した。
これには、能力構築の支援も含まれ、移民の登録と受け入れだけでなく、人身売買業者を追い詰めるための警察の捜査にも双方の国で協力をすることになっている。また、チュニジア人に合法的に「欧州連合」に加盟する可能性を提供するために、「タレント・パートナーシップ」と呼ばれるものにも法的なツールについても合意に至っている。
会談後の会見では、「チュニジアの安定化は我々にとっても不可欠だ」と述べ、締め括った。
また、欧州委員会ウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、イタリアに対し、「EUレベルでもイタリアは、人身売買と不法移民との戦いの両方でチュニジアへの支援を増やす具体的なアプローチだけでなく、EUが取り組んでいる総合的な支援パッケージ、資金提供、重要な機会のスポークスマンでもある」と述べ、全面的なバックアップを保証し、その準備はできていると語った。
メローニ首相は、「私は欧州委員会に非常に感謝している。」と繰り返し述べ、このEUパッケージの実施を加速するために、サイード大統領に対し、フォン・デア・ライエン欧州委員長と共に、すぐにチュニジアに戻ってくる意向を伝えた。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie