オーストラリアの診察室から
オーストラリアの移民政策の変化と住宅状況
オーストラリアは基本的に移民に対してかなり寛容な国でしたが、コロナ禍により状況が一変しほとんどの学生やワーキングホリデーの受け入れを中止しました。しかし、コロナが収束してからは再び以前の状態に戻ってきました。ワーキングホリデー参加者や学生の受け入れが再開されたころは、多くの分野で人手不足が深刻で、売り手市場となっていました。しかし現在では人手が飽和状態となっており、仕事が見つからず数か月で帰国するワーキングホリデーの参加者も多いようです。
オーストラリアでは住宅問題も続いています。特にワーキングホリデーなどで短期間滞在する住居が必要な人々は大変苦労しています。2024/25年度の連邦予算案では、政府はオーストラリアの永住者の上限を設定し、移民の数を以前の半数近くに減らすと発表しました。また、留学生の数にも上限を設けるとしています。
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オーストラリアは海外からの留学生の受け入れを一つの産業としています。留学生はオーストラリアに480億オーストラリアドルの経済効果をもたらし、200万人の雇用を生み出しています。これはオーストラリアで4番目に大きな輸出産業です。オーストラリアの大学などでは、留学生の授業料はオーストラリア国籍の学生よりも高く設定されており、大学の運営にとって重要な収入源となっています。
一部の政治家は、住宅問題の原因を留学生に求めています。政府は留学生の上限を設ける一方で、大学などが留学生用の寮を提供するのであれば、その上限を増やすことも検討しています。しかし、留学生の数を減らしても住宅問題には大きな効果がない、留学生が住宅に与える影響は数パーセントに過ぎないという見方もあります。住宅問題にはさまざまな原因があり、人口増加に対して住宅の建設が追いついていないことが最大の問題とされています。建設が進んでいない理由の一つには、建設分野の人手不足が挙げられます。他の理由としては、海外からの購入者が原因という意見もあります。
オーストラリアの移民政策は、経済状況や選挙のタイミングなどによって以前から変化してきました。コロナ前はオーストラリアでは医師の数が十分とされていましたが、現在では再び不足している状況です。住宅状況が安定し、労働者がもっと必要になれば、再び移民政策が変わるかもしれません。
参考
https://www.abc.net.au/news/2024-05-14/budget-2024-winners-and-losers/103779412
https://www.sbs.com.au/news/podcast-episode/government-planning-to-cap-international-student-numbers/1raxo4lw5
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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