ドイツの街角から
伝統を守るか、近代化を図るか? プファルツの「ワイン女王廃止」に議論が過熱!
ドイツワインの生産地プファルツのワイン協会は、「ワイン女王を廃止しワイン大使を起用する」と公表した。これに対して伝統が失われることに愕然とする人、近代的なブランド大使によるドイツワインの広告を素晴らしいと考える人など、賛否両論の議論がヒートアップしている。(2018年ドイツワイン女王選出の審査員を務めた当時の画像です。以下、すべて筆者撮影)
プファルツ代表ワイン女王の王冠はもういらない?
「今年10月からブランド大使を起用する」というニュースが7月16日に公表されて以来、プファルツワイン業界は騒然としている。
まずは背景を知るために、ドイツワイン女王並びにプファルツワイン女王がどのように選出されるのか、簡単にご紹介。
ドイツワイン女王は、国内13のワイン生産地から選ばれた地区女王13人が、年に一度女王の座を競いあう。このイベントは、ドイツワイン協会(DWI)の主催で開催される。
候補者に対する専門家による詳細な質問は、ワインの専門知識を主役に据えるため、大勢の聴衆の前で行われる。(下の画像・ドイツワイン女王選出が催されるラインランドプファルツ州ノイシュタットの会場「ザールバウ」)
ワイン女王候補者は、毎年9月下旬に行われる予選と最終選でブラインド・テイスティングを含む様々な方法でワインの知識とコミュニケーション・スキルを披露しなければならない。
英語での質疑応答にも対応するなど、多岐にわたり審査される。審査員は約70名のワイン関連業界の専門家が参席し、投票によりドイツを代表するワイン女王1人、プリンセス2名を決定する。
この3名の役割は、今後1年間の任期中に国内外でドイツワインの広報活動を行うことだ。
プファルツワイン女王もこの選出に臨んでいる。(参考記事-・ドイツワイン女王選出については、筆者が審査員として一票を投じた際の記事を参考にしていただければ背景がよく解ると思います)
これまでは、ドイツワイン女王選出終了後の10月にプファルツ代表のワイン女王を決定していた。それが今秋よりワイン女王ではなくブランド大使を選出するという。
プファルツでは何日も激しい議論が交わされ、名称変更と王冠を授与しないという決定によって、これほど注目を集めるとは思わなかったのではないだろうか。
地方紙 「Die Rheinpfalz 」の報道は連日とどまるところを知らず、賛否両論がソーシャルメディア上で議論され、様々な関係者の声明が発表され、あらゆる政党の政治家が発言し、そのほとんどが否定的で、古き良きプファルツワイン女王の存続を訴えている。
プファルツワイン協会(Pfalzwein e.V. 本拠地・ワイン街道沿線の街ノイシュタット)によれば、今後はプファルツワイン女王の称号ではなく、プファルツワイン大使として王冠の代わりにピンが用意され、選出には男性も参加できるそうだ。
プファルツワイン協会マネージング・ディレクターのヨーゼフ・グライリンガー氏は、「プファルツ州はドイツワイン女王の選出に引き続き1名を派遣します」と明かし、次のように解説した。
「プファルツはモダンでコスモポリタン、そして前向きなワイン産地です。だからこそ、伝統的なワイン女王からブランド大使に変革し、持続可能な未来へと導くことも我々の責任なのです。こうすることで、ワイン振興の目標、ひいてはプファルツのワイン生産者のために、適切な貢献を続けることができるのです」
ちなみにプファルツ地方のブドウ栽培面積は、ドイツ国内で2番目に大きな規模。美味しいリースリングワインの生産地、あるいはドイツワイン街道沿線の美しい街並みでも聞いたことがあるかもしれない。
時代が変われば・・・
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko