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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

偏見や人種差別に「NO」と言えますか?

自身が受けた人種差別に対してコメントを発表したセウ・ジョルジ Youtubeよりキャプチャ

昨日、こんな事が起こった。
私がゴイアニアのバスターミナルから長距離バスに乗った時のことだ。

大きなスーツケースをバスのトランクに積んでもらう時、バス会社の男性に
「おぉ、日本人はこんなに大きい荷物かかえて、ナルトかドラゴンボールでも入ってるのかな」
と大声で言われた。何をするにもオーバーリアクションな40代ぐらいの男性だった。

私の見た目がアジア人というだけで「ナルト」やら「ドラゴンボール」の話をしてくるブラジル人は結構いる。何か話すきっかけが欲しいだけのことが多く、こういった冷やかしには慣れっこだ。
中には日本の文化が大好きで、居ても立っても居られずにアニメの話をしてくる人もいる。

ちなみに私は「日本人」と判断されたが(身分証明書を提示したわけではない)、こういったタイプの人は日系ブラジル人や中国人、韓国人に対しても同じ対応なのだ。
韓国人の友人は、街で見知らぬ人に「ジャパ」(日本人)と言われるのを嫌悪していた。

バスに乗ると、先ほどのバス会社の男性が点呼のためにやってきた。
今度は私に「ありがとう」などと言ってくる。
そして男性は「中国語でありがとうはなんて言うの?」と聞いてきたので、何も考えずに「謝謝」と答えた。すると「なんだ!全然違うんだ。日本人も中国人も同じようなもんなのにね」と、失礼な言葉が返ってきた。

この「アジア人はみんな同じ」「見た目じゃ違いがわからない」という偏見は、よくこのタイプの中年男性が言ってくることが多い。
私は中国人に間違えられる事を嫌と思ったことはないし、言いたい人には言わせておこうと愛想笑いをしていた。

すると、前の席から「違う。日本人と中国人は別の民族よ」と男性を反論する声がきこえた。
反論したのは長い髪をドレッドヘアーにした若い黒人女性だった。

それでも男性が「みんな同じだ」と主張し続けると、それに付け加えるように向かい側の若い白人女性が「そうよ。ゴイアーノとミネイロみたいな感じよね?」と言った。
日本人と中国人は、「お隣同士で文化も似ているゴイアス州出身者とミナス州出身者みたいなものだ」と言いたかったのであろう。

すると黒人女性は
「日本人と中国人は別の民族で、異なる習慣、歴史と文化がある。見た目が似ているからって一括りにするのは間違っている。あなたも同じこと言われたら嫌でしょう?ファルタ・ジ・へスぺイト!」
と言い放った。ファルタ・ジ・へスペイトとは、相手に対して敬意がないということだ。

男性は最後までヘラヘラ笑っていたが、結局私は何も言えなかった。

|多人種多民族国家差別がない

多人種多民族国家と言われるブラジルが、北アメリカと比較すると人種差別が少ないと言われるイメージは作り上げられたものであるということを現地で生活する中で感じている。
特に偏見に関しては、ブラジルは日系人が世界で最も多い国にも関わらず、未だに多くの日系ブラジル人が偏見やそれに伴う差別を受けることがある。
(このアジア系への偏見と差別については以前記事を書いているのでこちらも参照していただきたい「サンパウロ、肌で感じるアジア人への偏見と差別」

しかし、最も多くの偏見と差別の被害者はアフリカ系ブラジル人である。

先日もブラジルの人気アーティストが国内で人種差別に遭う事件が起こった。

ブラジルを越え、今では世界で活躍する歌手で俳優のセウ・ジョルジがブラジル南部リオグランデドスル州のスポーツクラブ主催のイベントにゲスト出演した際、いつもならアンコールが起こるはずのタイミングで彼に対して人種差別とされる野次が起こった。

翌日、ショーを鑑賞したクラブ会員がその様子をSNSに投稿。スラム街出身で大成功したアフリカ系ブラジル人として幅広い世代に人気のあるセウ・ジョルジの衝撃的な事件に、投稿は瞬く間に拡散された。

後日、セウ・ジョルジは9分にも及ぶ動画を自身のSNSに投稿。
リオグランデドスル州の国旗の前で、同州は自身が敬愛する国民的アーティストのエリス・レジーナやヤマンドゥ・コスタ、元サッカーブラジル代表のロナウジーニョの出身地であり、これまで何度も公演をしたが素晴らしい州だったと冒頭に話した上で、「人種差別は絶対にあってはならない」と力強く語った。

南部はヨーロッパからの移民が多く、以前から黒人に対する差別問題が取り上げられていることから、セウ・ジョルジは同じ思いをする人たちを励ますコメントもしている。

そして最後に

"Amo minha raça, luto pela cor
O que quer que eu faça é por nós, por amo"  
「私は自分の人種を愛し、肌の色のために戦う。私がすることはすべて私たちのため、愛のためです」

と、ブラジルの大人気ヒップホップグループであるハシオナイス MC'sの楽曲「Jesus Chorou」の歌詞を引用して動画を締めくくった。

この衝撃的な出来事は国内の主要ニュースとなった。
一部ではセウ・ジョルジが政治的とも思える発言やジェスチャー(手をLの形にする=ルーラ元大統領支持)を行ったのが原因ではという報道もあるが、現在、差別的発言をした該当者を特定するための取り調べが続いている。

|偏見や人種差別に「NO」と言える人になる

ブラジルでは人種差別は犯罪と法律で定められており、最大で5年刑罰が科される。

それでも心無い言葉を投げつけてくる人はいなくならない。
特に偏見に関してはバス会社の男性のように悪い事を言っている実感がない人もいる。

ブラジルには人種差別事件が起こった際などに「Luta」(戦う)という言葉がよく使われる。
人種差別は放置してはならない、戦わなければならないのだ。

私の愛想笑いは一番やってはいけないことかもしれない。
いつも「言いたい人には言わせておこう」と放っておいてしまうが、それでは人種差別や偏見はなくならない。
自分や他人が受けた心無い言葉に対し、「それは違う」と言える勇気を持ちたい。

バスを降りる時、黒人女性に「代弁してくれてありがとう」と言うと、「当たり前のことよ」とさらっと返された。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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