World Voice

南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジル人で初めてSpotify世界ランキングTop5入りしたアニッタとは?

|アンチ・アニッタたち

強烈なアンチ・アニッタの理由は2つ考えられる。

1つ目はアニッタがファンキ界でデビューし、今でもファンキを歌うことだろう。
これはファンキカリオカを歌う人や好む人に対する偏見で、つまりスラム街から生まれた音楽性と文化を受け入れられないのだ。
アニッタの曲は既にファンキの枠を飛び越えているが、彼女のパフォーマンスはファンキ文化の象徴であるお尻を揺らすが一番の売りだし、歌詞の内容が暴力的だと非難されることもある。

実際、2017年に「Vai Malandra」をリリースした際、アニッタはリアルな表現を求めてリオデジャネイロのファベーラ(スラム街)を舞台にミュージックビデオを撮影。お尻を叩かれる(お尻とじゃれ合うというニュアンス)ビデオは世界各地で話題を呼び、リオデジャネイロの女性たちから「リオの女性のイメージを悪くしているのはアニッタ」と抗議された。

2つ目は、ブラジルは昔から米国で成功するアーティストを良く思わない傾向がある。
1940年代にハリウッドで最もギャラの高い女優だったカルメン・ミランダや、米国での成功後に"商業的ブラジル音楽"と野次られたセルジオ・メンデスが良い例だろう。 彼らは「米国に魂を売った」などと言われ、本国で評価されなくなった。(セルジオ・メンデスはのちの大成功と共にそのイメージを打破できたが、カルメンは渦中に米国で亡くなっている)

アニッタも英語やスペイン語で歌い出してから一部のファン離れを感じただろうが、決してポルトガル語で歌うことも忘れていない。
いつかアニッタがポルトガル語で歌う曲が世界チャートに並ぶ日が来るかもしれない。

|アニッタvsセルタネージョ界

実はアニッタの最大の敵は国内にいる。
これまでもブラジル国内で最も聴かれている音楽はセルタネージョ・ウニヴェルシターリオ*という事は何度も書いてきたが、これにはそれなりの"からくり"があるのだ。

昨年、アニッタの元マネージャーがラジオ番組に出演した際、「アニッタの曲をブラジル国内ランキングに入れるのは凄く大変なの。セルタネージョ界がどれだけお金持っているか知ってるでしょう?」「例えばアニッタの曲をラジオで流すためにラジオ局に私たちがお金を払う前に、セルタネージョ界がラジオ局ごと買って独占しちゃうんだから。」と暴露した。

確かに、セルタネージョ界の大成功の陰にはファゼンデイロと呼ばれる超大金持ちの農場主たちの存在がある。
アニッタはセルタネージョ界とのコラボも行っており表面上は仲が悪い訳ではない。
それでもセルタネージョ界が市場を独占するためにファンキ界出身のアニッタやルジミーラ(ビヨンセに強い影響を受けた今最も人気アーティストの一人)を恐れているのはなんとなくわかるだろう。

*セルタネージョ・ウニヴェルシターリオとは2000年代に誕生した音楽、詳しくはこちら以前の記事を参考にして頂きたい:『ブラジルで最も聴かれている音楽セルタネージョ・ウニヴェルシターリオとは?』

|等身大のアニッタ「私は天才じゃない。働き者なの。」

2022年3月時点でInstagramのフォロワーは6.049万人、更新は英語やスペイン語での投稿も増えてきているが、Twitterではよくブラジルの人気番組ビッグブラザーについてリアルタイムでコメントしたり、時にはボウソナロ大統領やその側近たちと討論することもある。

つい最近もアニッタは元環境省大臣のヒカルド・サレスと討論になり「私がセクシーだからって理由だけで馬鹿だと思ってるでしょ?」と言い放った。

確かにアニッタはその色気とパフォーマンスからブラジルのセックスシンボルとなったが、彼女は性的な魅力以上の影響力がある。

アニッタは圧倒的な歌唱力や一度聴いたら忘れられない声の持ち主ではない自分の存在を認め、リオデジャネイロの小さなライブ会場から世界へ羽ばたく過程と共に、政治観や時には美容整形の経過まで、常に等身大の自分をさらけ出すことによってSNS上で人々を魅了しているようにも感じる。
人気になってからも「私は天才じゃない。働き者なの。」と話すのには納得できる。
駆け出しの頃のアニッタと今のアニッタは歌い方、踊り方、立ち振る舞いもまるで別人だ。

アニッタがお尻を隠すのが先か、それともアンチ・アニッタが彼女の実力を認めるのが先かはわからないが、音楽に真意に向き合い、常に成長しようと努力する等身大の彼女の姿がもっと評価され、いつかポルトガル語で堂々と世界ランキング一位を獲ってくれないかと、私はひそかに応援している。

【3月26日追記】
3月25日、アニッタの「Envolver」はついにSpotify世界ランキング1位に輝いた。本人は「オーマイゴッド」と英語、スペイン語、ポルトガル語でTwitterに呟き、ブラジルのアーティスト達もアニッタを祝福するコメントを寄せている。


アニッタのデビューから現在までの記録
 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ