南米街角クラブ
ブラジルで最も聴かれている音楽セルタネージョ・ウニヴェルシターリオとは?
|セルタネージョ・ウニヴェルシターリオの音楽的特徴や傾向
音楽的にセルタネージョ・ウニヴェルシターリオは元となったセルタネージョの売りである"哀愁"をうまく引き継いでいる。
共感できるような歌詞とロマンチックな展開が加わり、メロディは覚えやすくハーモニー進行的は比較的シンプルで似ているものが多い。
編成はヴィオラ・カイピーラやアコースティックギター、アコーディオンが入ることが特徴的で、ベースとドラムがそれをしっかり支える。
海外のヒットソングや他のアーティストの曲をセルタネージョ風にカヴァーしたり、2000年にバイーア州カンデイアスで生まれたアホーシャと呼ばれるスローな音楽をショーに取りいれることもある。
家で聴くと言うよりは、集まりで聴く音楽なので、とにかくショーが沢山行われているのも特徴だ。
そのため歌手は声量とスタミナがあり、とにかく歌が上手い。
更に歌手はインフルエンサー的な立ち位置にもあるため、見た目も重視されている。男性は短髪、整えられた髭に筋肉質でピタッとしたシャツを着ていることが多い。
|セルタネージョ界におけるジェンダー
セルタネージョはムジカ・カイピーラの伝統である男声デュオという編成をそのまま引き継いでいたため、暫くの間は女性歌手の登場が少なかった。
40年代から活躍したカストロ姉妹やイネジータ・バホーゾら女流歌手も活躍したが、田舎的な風習から、女性が外で働くことや、ポピュラー音楽を歌い巡業することは周りはもちろん家族からもよく思われていなかった。
そんな中、マリリア・メンドンサは抜群の歌唱力とパフォーマンスでファンを増やし、女心を歌った失恋ソングで女性から絶大な人気を得る。(男性が歌うセルタネージョは男尊女卑な物もあるため賛否両論ある)
有名になっても気取らず、親近感あるキャラクターで愛されており、亡くなる直前には自身のInstagramにてダイエットと体づくりに励んでいる様子を赤裸々に見せていた。
また、マリリアは2018年の大統領選挙にて、現大統領ボウソナロ氏に反対した唯一のセルタネージョ歌手だった。
セルタネージョ界の歌手たちは、カエターノ・ヴェローゾやミルトン・ナシメントのようなMPB界のミュージシャンたちのように政治的なコメントを公にはしない。
そんな中、マリリアは「政治的な問題ではなく、良識の問題。」と強気の姿勢でボウソナロ政権を批判。人気歌手の政治に関するコメントは、政治に興味がない人達への呼びかけともなった。
|「マリリアの音楽が私を手助けしてくれた」
マリリアの突然を訃報を受け、彼女の出身地であるゴイアス州の州都ゴイアニアで行われた葬儀には多くのファンが訪れた。
EL PAÍS誌はその列に並ぶファンにインタビューを行い、ゴイアニアに住む大学生は「ロックばかり聴いていたんですが、ある日、たばこを買いに行った際にマリリアの歌を聴いて気に入って。最初は少し恥ずかしさも感じながらも、サンパウロに住んでいた時にはマリリアを聴いて故郷を懐かしみました。マリリアの音楽は私が偏見に打ち勝てるように手助けをしてくれ、ゴイアス州の文化を再発見させてくれました。」と話した。
ブラジルの田舎独特な伝統を受け継ぐセルタネージョ・ウニヴェルシターリオは、世界的にブラジルの音楽として認知されているサンバやボサノヴァと違った形でリアルな現状を映し出し、その中で生きる人々にブラジルの伝統を少しでも感じさせているようだ。
しかしながら、セルタネージョ・ウニヴェルシタリオはその人気とは裏腹にアンチも多く、そういった人々はファンキカリオカ(もしくはファンキパウリスタ)やNova MPBと呼ばれる新しい世代の音楽を聴いている。欧米ポップスや、最近では韓国のグループも人気だ。
引き続きブラジルの音楽シーンをレポートしていきたい。
【今日の1枚】
セルタネージョ・ウニヴェルシターリオとは逆に、ムジカ・カイピーラの良さを再発見するグループも注目されている。
Conversa Ribeiraはカイピーラには珍しいピアノを含めた混声のトリオ。現代的に伝統音楽を解釈している。
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada