高い教育水準
ウクライナには旧ソ連の良い遺産を受け継いでいる高度な理系人材を輩出する工科大学がそこら中にあります。最初期のヘリコプターを開発したことで知られるイーゴリ・シコールスキイはキエフ生まれのウクライナ人でキエフ工科大学で学びました(後にアメリカへ移民)。キエフ中心部に位置する同大学の周辺には筆者が現地代表を務める開発チームのオフィスを始め、IT企業が集積しており、さながら「キエフのシリコンバレー」のような様相を呈しています。これは同大学の学生をインターンとして雇用する企業がキャンパス周辺に多いからです。毎年2万人もの理系卒業生がIT業界に向かいます。他業界より高給で英語力や世界に通用する技術や経験を積めるIT業界はウクライナの若者に大人気です。人口4500万人のうち実に20万人がIT技術者と言われており、他業界からの転職も非常に多いです。
次々と進出する日本IT企業
筆者は2018年12月にウクライナへ移住したのですがそれ以来日本IT企業が次々にウクライナへ進出しています。代表的なところではネオキャリアの子会社である株式会社ネオラボ(現地でAI、画像認識を主とする研究開発センターを設立)、楽天株式会社はメッセンジャーアプリのViberを買収し、ウクライナのキエフとオデッサに巨大な研究開発センターを作っています。その他にもソフトバンクグループ会長孫正義氏の弟である孫泰藏氏のMistletoeが出資をしている数々のスタートアップ企業を輩出した伝説のエストニアのコワーキングスペース、インキュベーションセンター、スタートアップコミュニティのLIFT99が去年(2019年)エストニア外の初の拠点をウクライナのキエフに設立しました。エストニアのスタートアップ企業の多くがウクライナにR&D開発拠点を置いているためです。近年日本企業は伝統的なオフショア先であるベトナムや中国での人材確保に苦労しており、ウクライナに次々に目を向けています。特に高度な数学、理系教育の素地を必要とするデータサイエンス、AI、サイバーセキュリティ、クラウド、ビッグデータ解析などの分野で豊富な優秀な理系人材を確保できる国として日本のみならず世界中の注目を集めています。しかし残念ながら日本企業は保守的な企業が多く、稟議が遅々として進まず、カントリーリスクが実際以上にハイライトされているため尻込みする場合が多いのですがそうしている間にも欧米企業のみならずお隣の中韓企業はどんどんウクライナにR&D拠点を作りつつあります。
進出しているシリコンバレーや多国籍企業
ウクライナには日本企業のみならず韓国のサムソン電子、中国のファーウェイ、ドイツのシーメンス、アメリカのボーイング、WIX、Snapchat、Amazon、Vemeo、Microsoft等数えきれない程の企業が進出し開発センターを置いています。英語を解し、世界的に一般的に普及している開発メソッド、アジャイル開発のマインドセットを持っており、独創的で自発的なエンジニアの多さが主に欧米企業との開発プロジェクトで非常に好まれる要因です。日本IT企業はこうした世界で一般化されているITプロジェクトマネジメントがまだ完全に普及していない点からウクライナIT企業との協業においてチャレンジも多数ありますが日本が従来のハードウェアのみならずソフトウェア大国として生き残り続けるためにはウクライナが非常に重要になってくるであろうと筆者は考えます。「東のハードウェア工場」が中国なら「西のソフトウェア工場」がウクライナなのです。
ウクライナ進出はまだまだ日本企業にとってブルーオーシャン
従来のインド、ベトナム、中国などのオフショア開発センターは人件費の高騰や人材の確保の難易度が上がってきており特に日本企業は次なるソフトウェアの開発拠点を血眼になって探しています。その中でも人件費、ソフトウェア技術と経験のバランスがとれたウクライナはこれから日本企業が殺到することが予想されます。日本IT企業は現地にはまだ数社しか進出しておらず、まさにブルーオーシャン状態と言えます。進出するなら今が一世一代のチャンスではないでしょうか?
Ago-ra IT Consulting 柴田裕史へのご連絡は下記まで:
hiroshi.shibata@ago-ra.com
HP: https://ja.ago-ra.com/
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