スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~
COVID19で変わりゆくスタートアップの採用シーン:IIT-H JETRO JAPAN DAYに参加して
本業のビジネス推進に加えて、たまに人事っぽく採用活動(正社員やインターン)も展開しています。
私がインドに来た時やCOVID19パンデミック前は、「採用」と言えば、リンクトインやSNSを用いて母集団形成を実施し、レジュメを集めて良さそうな候補者をスクリーニング掛けてFace to Faceで対面面談を実施して、複数回面接の後、オファーレターを出して条件を握って採用決定という展開でしたが、COVID19による非対面折衝の推奨で話が随分と変わってきたように実感しています。
友人のHRテック企業も対面で学生向けのハッカソンを実施していましたし、各大学もキャリアセンターは絶対に対面での面接を実施していたように記憶しています。
今回は今年の10月に開催されたJETRO様のIIT-H「 JAPAN DAY」のリクルートメントイベントに参加してみての感想や当日の状況やこのCOVID19でどんな風に採用シーンが変わっていくか考察していきます。
1.JAPAN DAY概要
「JAPAN DAY」はインド工科大学ハイデラバード校、JICA、JETRO共催によるイノベーション人材採用のための日本企業による説明会として2018年から開催されてきました。2020年は第3回目となり、初のフルオンライン開催となりました。
インド工科大学はインド最高峰の工学&科学技術系大学群の総称であり、23校から構成されています。1950年代から設立され、今やインドを代表する大学となっています。
その中でもハイデラバード校(IIT-H)は日本との縁がかなり深いのです。こちらはJICAでの紹介ページになりますが、日本からの手厚い支援を受けてIIT-Hが成立し、日印間での産学官連携の促進に寄与しているのです。
JICAは、円借款による新キャンパス建設・機材整備、技術協力による本邦学術・産業界との人的交流及び共同研究等の事業を通し、約100名のIITH奨学生の本邦大学における修士、博士学位取得、34名の本邦企業就職、10件超の本邦大学・学術機関等との協力覚書締結といった成果を達成しており、日印連携の強化、IITHの教育・研究能力向上に貢献しています。
(https://www.jica.go.jp/information/seminar/2019/20191111_01.html より引用)
今回のオンラインセッションでは、参加企業による学生向けプレゼン、希望学生との個別セッションという構成で、全てリモートにて実施されました。
こちらがJAPAN DAY ウェブサイトですが、サイトに訪問するだけで各社の概要と動画での説明を視聴することができ、わざわざ対面での説明会に参加しなくても企業概要が理解できるので、学生さんにとって便利な構成となっています。
【JAPAN DAY特設ぺージ】https://www.jetro.go.jp/en/events/iithjapanday2020.html
加えて先日実施された「在日インド高度人材に係る調査」の結果も英文にて紹介され、在日インド高度人材が持つ、日本における就業に対しての意識や現状認識についてのリアルなヒアリング結果が案内されていたので、当日聴講していた学生さんにとっては参考になったことでしょう。
特に日本で働いているインド人の63%が継続しての日本での就労を希望し、その理由を住環境・治安のよさ、日本文化、日本技術と挙げていたのは日本企業にとって今後の採用における訴求ポイントの参考になると考えられます。
【「在日インド高度人材に係る調査」報告ページ】https://www.jetro.go.jp/news/announcement/2020/80e57fc649984c55.html
(JAPAN DAYオープニングリマーク、筆者が当日撮影)
2.JAPAN DAY当日の様子
当日は1日のみのセッションでしたが、いちいち校舎まで移動する必要がないので、極めてオペレーションが楽でした。ZOOMにアクセスして学生さんと話すだけなので、従来の対面方式に比べると気軽さが増したように実感しました。
私も何回かハイデラバード校に行ったことがあるので、「ここまで楽なのか・・」と思ってしまいました。あまり大きな声では言えないのですが、IIT-Hはハイデラバードでもやや郊外に位置しているので、空港から車で1時間も揺られて行くと疲れてしまうのです。笑
(Google Mapより筆者作成)
こちらのプレゼンはベンガルールにある自宅から撮影したもので、自宅感満載ではありますが、自宅に居ながらにして採用説明会&個別セッションができるのは有難かったです。
(当日の学生向けプレゼン動画、筆者撮影)
個別セッションでは、約13名の学生さんと相互コミュニケーションすることができましたが、校舎にわざわざ出向いて誰が誰かいちいち気にしながら話すよりも1人1人がチャット等で質疑応答を確りしてくれたので、やりやすかったです。
(JAPANDAY当日の風景、筆者撮影)
個人的な感想としては、大手企業も複数社参加していたので、スタートアップと大手の安定感を比べられてしまうと母集団形成ではきついのではないかと考えていましたが、ふたを開けてみたら20名近くの学生さんとコンタクトを取ることが出来たので嬉しかったです。
というのも、IITも大手・外資志向が強いので、スタートアップに関心を示してくれる学生さんがいるのは有難いからです。
以下の表はIITマドラス校の就活案内から抜粋した過去の採用企業の例ですが、見事なまでにインド大手・外資企業の構成となっています。IITの各キャリアセンターとしてもIITの中で自校が一番就活に強いとアピールしたいのです。
(https://placement.iitm.ac.in/ より筆者抜粋)
3.インドにおける採用活動の変化(所感)
今回のJAPAN DAYに参加してみて、以下アイディアが想起されました。
・オンライン主導になるので、母集団形成は楽になる。(人材エージェントの介在価値も変わってくるはず。)
・その代わり、候補者のスクリーニングを確り実施しないとミスマッチが生まれる。
・非日本人を採用するなら文化的背景やコンテキストの違いに着目しないと離職率が上がる。
直感的に感じたのは、まず候補者の母集団形成はSNSとオンラインセミナー、キャリアセンターとの連携を掛け合わすことができれば、採用ハードルは下がると感じました。
COVID19の影響で失業率が4月から6月でかなり厳しくなったのと、慢性的に新卒向けのポジション不足が続いているので、優秀層へのリーチがしやすくなるのではないかと考えられます。
【インドの失業率データ】
(Center for Monitoring Indian Economy https://unemploymentinindia.cmie.com/kommon/bin/sr.php?kall=wshowtab&tabno=0001 より筆者抜粋)
加えて、アサインメントに至るまでの評価・選抜の部分でどうやってバックグラウンドチェックできるか、スキルを適切に評価できるかが重要になってくると感じました。
母集団は直ぐに形成できるので、それらの母集団からどうやって自社に合う人を見つけるかが問われてくるということです。
ですので、人材エージェントの起用についても、よくありがちな候補者のレジュメを集めてきて右から左に流すだけのエージェントではなく、確りバックグラウンドチェックとスキルチェックもしてくれるエージェントでないと物足りなさが出てしまうのではないかと。
更に、採用側もインド人材のみならず、非日本人を採用するとなると、日本人のコンテキストや文化的背景とは違う人を雇うことになるので、日本流を押し付けるだけでは離職率が高くなってしまうと予想できます。
恐らく、エリン=メイヤー「異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養」で提示されているカルチャーマップやハイコンテキスト、ローコンテキストの違いといった理解や「ホフステードの6次元モデル」にある文化理解のためのフレームワークを使いつつ実務で自社に合う形にまとめていくという展開になるかと感じました。(もちろんフレームワークに事実をはめ込むだけではNGです。)
こればかりは試行錯誤になりますので、また「採用」をテーマに経験や体験談をまとめることができればと思います。来年も実施されるのであれば、またJAPAN DAYに参加したいです!
著者プロフィール
- 永田賢
Sagri Bengaluru Private Limited, Chief Strategy Officer。 大学卒業後、保険会社、人材系ベンチャー、実家の介護事業とキャリアを重ね、2017年7月に、海外でのタフなキャリアパスを求めてYusen Logistics India Pvt. Ltdのベンガルール支店に現地採用社員として着任。 現地での日系企業営業の傍ら、ベンガルールを中心としたスタートアップに魅せられ独自にネットワークを構築。2019年4月から日系アグリテックのSAgri株式会社インド法人立ち上げに参画、2度目のベンガルール赴任中。
Linkedin: https://www.linkedin.com/in/satoshi-nagata-42177948/