スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~
中印国境紛争によるインド国内での「中国関連アプリ禁止」の現状
日本のメディアでは、米中貿易戦争で「トランプ大統領VS習近平国家主席」が取りざたされているように見えますが、実は「中印国境紛争」も熱戦になりそうな雰囲気になってきております。
歴史的にみると、インドと中国は第二次世界大戦直後は、ネルー首相と周恩来首相が共同で「平和五原則」を出して「領土主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存」を守っていこうと世界に発信するくらい親密な関係にありました。
しかし、中国がチベットに侵攻し、チベットを実効支配して、ダライラマ14世がインドに亡命政府を移すと、中印における国境論争が先鋭化していき、1962年には中印で戦闘状態になり、それ以後は中印はある意味、インド北部方面(ジャンム&カシミール地方)からヒマラヤ方面において、国境紛争を抱える関係になってしまいました。
そのような状況の中、6月にまた衝突が発生し、それ以来、インド側が中国に対して対抗措置を諸々出してきています。
今回の記事では、それらの対抗措置の中でも中国関連アプリ禁止にスポットをあてて紹介していきます。
1.インド政府による中国関連アプリの禁止措置
インド政府による中国関連アプリの禁止措置は現時点では二段階に分かれて発令されています。第一段階が7月、そして第二段階が9月となっています。
第一段階では、59のアプリが禁止されました。主なものとしては、動画投稿アプリのTiktok、コミュニケーションツールのWechatが挙げられます。
実際にインドからアクセスして、Googleストアに行ってみても、Tiktokのページは完全に消されています。一覧にすら出てこないです。
(Googleストアのスクリーンショット、Tiktok本体のアプリはなく、補助・付随アプリしか見えない、筆者が2020年8月に撮影)
この時は、Tiktokも遊興用ですしメッセージツールも、Wechatではなく、インドの皆さんとはWhatsappでコミュニケーションをとっていたので、「そこまで大した禁止措置ではないのかなぁ、たぶん牽制的な意味でしょう。」というのが、個人的な印象でした。
しかし、9月に第二弾として出された禁止リストはビジネスにやや関係するものやインドでメジャーなものであったり、中国系企業の旗艦アプリが多く散見され、第一段階よりもかなり厳しい措置となっています。
実際、私の例を出すと、名刺管理アプリのCamcardを使っていましたが、まずアプリにログインしようとしても、「サーバー負荷が掛かりすぎていてアクセスできません。」の文言が何度やっても出てきて、ならばクラウドにアクセスしようとして、ブラウザからログインしようとしても「アクセスできません。」が出てきてしまい、万事休すです。
日本にいる友人達に以下のスクリーンショットを送り、日本ではアクセスできるのか尋ねてみたところ、全く問題なくアクセスできているようで、インドでの禁止措置が直ぐに反映されてしまっているようです。名刺管理はアプリ任せだったので、また新しい名刺アプリをダウンロードして紙の名刺をいちいちスキャンしなおさねばならなくなり、かなり痛手です。
(Cam Cardアプリ画面スクリーンショット、ログインできない。筆者2020年に撮影)
(Cam Cardブラウザ画面スクリーンショット、アクセスできない。筆者2020年に撮影)
2.インド政府から禁止された中国アプリのリスト
では、具体的なリストを見てみましょうか。まずは7月の第一弾です。そこまでメジャーなアプリはTiktok(動画投稿アプリ)やWechat(メッセージアプリ)以外はそこまでないかという印象です。
【第一弾における禁止アプリのリスト】
(インド政府通知等から筆者独自作成)
続いて、第二弾の禁止リストを見てみると、メジャーなアプリが多くあり、インド政府の本気度合が見えてきます。
例えば、PUBGはインドで最も人気のあるバトルロイヤルゲームの一つで、今回はモバイル版が禁止になりました。確かPC版は韓国企業の作品でしたが、このモバイル版は2つのモバイル版は中国企業のTencent Gamesが開発し、所有しています。約5000万ユーザーがおり、毎日アクティブユーザーが約1300万人もいる巨大なユーザーを誇るアプリとなっていました。
更に、アリババグループのAlipay(決済アプリ)、Taobao(オンラインモール)やゲーム大手のLudoも禁止リストに入ってしまっており、中国からの主要なアプリは締め出しの様相を呈してきています。
【第二弾における禁止アプリのリスト】
(インド政府通知等から筆者独自作成)
3.インド政府の姿勢
最後にインド政府の姿勢をおさらいしておくと、モディ首相の独立記念日演説を振り返るに、モディ首相は国境問題について以下のようにコメントしており、中国をけん制しつつ、国境問題については強気の姿勢を保っている印象を受けます。
【ポイント】
・膨張主義とテロリズムに屈する気はない。
・隣国は単なる国境を接した国ではなく、共に平和共存の道を歩んでいきたい。
(モディ首相演説内容より筆者翻訳、要旨要約)
この膨張主義とテロリズムに屈する気はないというポイントが暗に中国を意識しているような印象を受けます。
中印国境線ではまだにらみ合いが続いており、ロシアにて中印の防衛大臣クラスで会合が持たれたようですが、状況は目を離せないです。
今回はアプリにフォーカスしましたが、今後、中印国境紛争問題の歴史的背景や通商政策面におけるインドの対抗措置に触れていきます。
著者プロフィール
- 永田賢
Sagri Bengaluru Private Limited, Chief Strategy Officer。 大学卒業後、保険会社、人材系ベンチャー、実家の介護事業とキャリアを重ね、2017年7月に、海外でのタフなキャリアパスを求めてYusen Logistics India Pvt. Ltdのベンガルール支店に現地採用社員として着任。 現地での日系企業営業の傍ら、ベンガルールを中心としたスタートアップに魅せられ独自にネットワークを構築。2019年4月から日系アグリテックのSAgri株式会社インド法人立ち上げに参画、2度目のベンガルール赴任中。
Linkedin: https://www.linkedin.com/in/satoshi-nagata-42177948/