アルゼンチンと、タンゴな人々
ミレイ政権発足から4カ月。変化していくアルゼンチン経済、「痛みを伴う改革」に国民の反応は?
その様相はまさに国民の耐久レース、いつまでの辛抱になるのかは誰もわかりません。
現在のアルゼンチンの最低賃金は約200ドル。市内に家を借りようとするならワンルームでも200ドル程度が相場、外食すれば出ていくお金はほとんど日本と変わらない感覚です。給料は目減りしていく中、物の値段は上がっていく。それでもせめて職をキープできて、貯金があり、病気をせずにこれまでの生活を続けられたら勝ち、そのレースから零れ落ちてしまえば、住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなります。
このやり方を持って、IMFの提示する課題は3月時点で達成したことになります。
ミレイ大統領の思い描く国には実現する可能性はありますが、しかしそこにたどり着くまでにどうなってしまうのか様々な懸念や不安が社会には広がっています。中流階級層以下はもちろん、富裕層の中にも疑念を抱く人も増えているような印象です。
彼の言う「自由主義」、思い描く社会というのは、貧困層は見捨てられる社会ですが、そんな現在のアルゼンチンの貧困率は52%。この4カ月で毎月100万人ペースで貧困層が増えている状況です。
中東情勢への関わり
2月のイスラエル訪問時、ヘルツォグ大統領との会談にて在イスラエル・アルゼンチン大使館をエルサレムに移す方向で進めていく、という話し合いがあったことは国内でも大きく話題になりました。
国際的な超右派と足並みを揃える意向で、現在アルゼンチンはイスラエル側についています。
また現在NATO加盟の申請を始めたところで、デンマークから6億ドルかけて古い戦闘機24機も購入したと報道がありました。
ミレイ大統領は以前から熱狂的にユダヤ教・オーソドックス(超正統派)に大きな憧れを抱いていて、改宗はしていないものの、在アルゼンチンのオーソドックスの会合やイスラエルでの会合にもしっかりと帽子を被って参加しています。
その他の気になる動きとしては、イーロン・マスク氏との会合にも注目が集まりました。
アルゼンチンは世界の主要リチウム生産国のひとつでもあり、現時点では中国企業の投資が一番多い状況です。
ミレイ大統領による「誰でもアルゼンチンの国土を好きなだけ自由に買えるようにする」法律改正も緊急大統領令の中に含まれており、その効力は現在も続いているはずです。
経済的に不安定な国、インフレでの値上げで生活が苦しくなることはこれまでにも何度もありましたが、ここまでの経験は私も10年生活していて初めてなので戸惑っています。
これまでは、どんなに経済危機だと騒いでもそれでも人々はなんとか楽しみを見つけながらそれなりに暮らせていました。それは国が借金まみれになりながらもこれまでのポピュリズム政権が作り出していたもので、汚職や沢山の問題を孕んでいたのも確かです。現在は国民がその代償を払っている、と言って間違いはないでしょう。
うまく上流・中流階級層、90年代後半からの経済危機や軍事政権時代を経験していない若者の憎悪を引き出して、票につなげたのがミレイ政権。現在もそのスタンスは変わらず、法律改変案など説明して国民を説得するのではなく、通して「前政権の悪口を言い続ける」。国民の反感を引き出し、支持率を獲得している、という印象です。
毎日ニュースをつけると新しい問題が勃発しているアルゼンチン。
先週末大きく話題になったのは、国会にて「上院議員の給与を3倍に値上げする案」が上院議員たちの挙手により可決する、というニュース。毎日飽きません。
どんな未来が待っているのか、一般庶民にも、エコノミストたちにとっても、誰にも予測することができません。
著者プロフィール
- 西原なつき
バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。
Webサイト:Mi bandoneon y yo
Instagram :@natsuki_nishihara
Twitter:@bandoneona