アルゼンチンと、タンゴな人々
アルゼンチンで激増するロシア人出産ツアー
そんな中、空港で起こった事件
ロシア人妊婦の観光ビザでの入国が目立っていたとしても、移民局は義務的な規則に従って行う限り犯罪ではない、と明言していました。
しかし先月、妊娠後期6人のロシア人女性がエセイサ国際空港で「偽の観光客」であるとの非難を受け、拘留されたのです。入国管理局によると、女性たちは帰りの航空券を持っておらず、観光客としてどこへ行くかも知らなかったと言います。
この事件をきっかけに、空港や病院だけで知られていた事実が明るみに出て、アルゼンチン国民にも一般的に認知されることとなりました。
アルゼンチン移民局、空港関係者、政府などを巻き込んだこの事件、最終的には空港で拘束されていた女性たちへの人身保護令状が受理された後、政府は方針を変更。入国管理局は、アルゼンチンに到着したロシア人妊婦を空港で拘束しなくなり、現在では「定住のため」に到着したロシア人妊婦とそのパートナーたちの入国は日常的に許可されています。
犯罪的な活動
しかし、アルゼンチン政府関係者は、このロシア人出産観光ブームの背後に犯罪ネットワークがあるかどうかを調査していることも発表しました。
移民局は、アルゼンチンで生まれた子供を持つ外国人に与えられる移住制度(子供だけでなく、その両親にも国籍を取得する権利があるという制度)を利用して、アルゼンチンのパスポートを手に入れ、それを犯罪に利用する者がいるかもしれないと示唆しています。
同局は、スロベニアでアルゼンチン国籍を持つ3人のロシア人スパイを確認し、その国籍は出産による取得であったという事も報告されています。2022年には1万777人のロシア人女性が入国し、うち6401人がすでに出国しているそうです。
また特定の犯罪組織がこの出産観光に関わっている疑いで捜査を始め、その組織は、富裕層のロシア人家族から入国のために2万米ドルから3万5千米ドルの金額を受け取り、子供の誕生後に偽の文書を使って、アルゼンチンへの定住とアルゼンチン国籍取得の手続きを記録的な速さで進めたといいます。
身近な変化
住んでいる者から見て、街を歩いていての様子の変化は特にありません。移民の国なので、観光客も移住者も、様々な国籍の人たちと混ぜこぜで暮らしているのが普通です。
しかし、賃貸物件を探している人々の間でよく話題にあがるのが、物件不足とその家賃の急激な値上がりです。
元々Airbnbなど短期滞在用の物件も多い街ではありましたが、富裕層のロシア人に貸せる値段が浸透したことで、短期・長期共に外国人滞在者向け物件の家賃平均が約2倍くらいに吊り上がっているように感じられます。
そしてこれまでアルゼンチンペソで貸していた長期契約用の賃貸物件のオーナーたちが、そういった物件または売り物件に切り替えていることで、現在地元民向け賃貸物件の数は通常の2割くらいの数しかないと先日のニュースで言われていました。
ウクライナ侵攻が始まって一年が過ぎ、ロシア人妊婦たちの拠り所となっているラテンアメリカ。今後起こるであろう変化にも注目していきたいと思います。
著者プロフィール
- 西原なつき
バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。
Webサイト:Mi bandoneon y yo
Instagram :@natsuki_nishihara
Twitter:@bandoneona