シリコンバレーと起業家
米国新政権によるシリコンバレーのビザの影響
──トランプ政権からバイデン政権への交代にあたり、米国にいる移民起業家にはどのような影響が起こりうるのでしょうか?(聞き手:中屋敷 量貴)
内藤:自分も一人の移民起業家という立場から言うと、今回の政権交代で一番関心があるのは就労ビザへの影響です。とりわけスタートアップの移民起業家にとっては良い変化の方が多いのではないでしょうか。日本国籍の人がアメリカに来て会社を経営するとなると、多くの方がE2ビザという投資家ビザを取ることになるのですが、過去4年のトランプ政権においては、移民の数を減らすことがトランプ大統領の仕事の一つだったので、ビザ取得の基準がそれ以前のオバマ政権に比べてかなり厳しくなったと聞きます。
私は現在E2ビザを取得して米国で会社を経営していますが、ビザは5年前のオバマ政権の時に取得しました。一般的にE2ビザを取得するには、アメリカ現地で会社を経営をする過程で使用した資金の額が重要な条件のひとつとして挙げられます。現地で使用した資金の金額が、アメリカ経済にいかに貢献をしたかの証明に使われるのです。移民弁護士によって意見は異なりますが、オバマ政権時では、$200k-$300k(約2000万円〜3000万円)の資金を使うことがひとつの目安でした。トランプ政権時ではその金額のハードルが上がったと聞きます。
また、現地で移民として就職する場合に主に適応されるH1Bビザの取得基準も同様に厳しくなったらしく、一般的にH1Bビザの場合は特定の能力のある人に一定基準以上の給与を支払うことで発行されるビザなのですが、その給与水準もかなり上がっており、移民を採用するスタートアップにとってはH1Bビザをサポートすることが結構大変になったと聞きました。
今後のバイデン政権では、これらのビザ取得の水準が下がるのではないかと言う期待があり、これは移民の従業員、そして高い給与を支払う必要があった企業側にとっても良い変化になるのではないかと思います。
一方、昔と比べて違いがあるとすれば、コロナによりリモートで働くことが一般的になりつつあるという点です。これまではMicrosoft、Facebook、Twitterという大手テック企業がインドや中国から優秀な人材を採用し、米国シリコンバレーで働いてもらうために、H1Bビザをサポートしていたのですが、こういったテック企業がコロナにより永久的に従業員がリモートで働くことを許可したので、そもそもH1Bビザを取る必要性が以前に比べてかなり低くなるのではないかと思います。
前述のようにH1Bビザを取るのは、企業と従業員の双方にとってかなり負担が大きく、従業員側はH1Bビザが年間に発給される数に上限があることと、それが年に一度の抽選で決まるということから、かなり不確定要素の多い中で、就職活動を行う必要がありました。会社側もビザをサポートするとなると法的な部分でコストがかかりますし、ビザ取得基準の関係から高額の給与を支払わなければならず、大きな負担になっていたと思います。
しかし、コロナの影響でリモートワークが一般的になり、世界のどこにいてもアメリカの大手テック企業で働けるという前提になれば、そもそもH1Bビザが本当に必要なのかは疑問です。以前まではFacebookやTwitterなどの憧れの会社で働くのであれば、物理的にシリコンバレーに来ることが必須でしたが、今ではその必要がありません。できるだけ同じタイムゾーンで働いて欲しいという企業側の要望がある場合は、タイムゾーンがほぼ同じで、生活コストも安く、アメリカよりもビザが取得しやすいカナダなどに移民する人は増えるかもしれません。
著者プロフィール
- 内藤聡
Anyplace共同創業者兼CEO。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、ホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。ブログ『シリコンバレーからよろしく』。@sili_yoro