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森田早紀|オランダ

オランダからマスクが消えた日、コロナが消える日?

(iStock - herraez)

2021年6月26日、オランダからコロナが消えた...

 

かのように、人々の顔から、マスクが消えた。

オランダ政府はその一週間ほど前の記者会見で、他人と1.5メートル間隔を保つことを条件に、ほとんどの場面でマスクの着用が不要となるなどの措置緩和を公表した。

そして26日に私が買い物に行った際、お店の入り口手前でマスクを着けて自動ドアを通り抜け、ふと他のお客さんの顔を見ると、マスク着用率ほぼ0%だった。あ、今日からだったのか、と思い出した。暑いし息苦しいので私も即外した。入り口の横のアルコール消毒用スタンドは残るが、人々の顔を見る限り、マスクと共にコロナも消えてしまったようだった。

(※追記 7月9日、PCR陽性者が増えていることを受け、一部措置が再強化された。しかしマスク着用義務の緩和は変わっていない)

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(筆者撮影 2020年10月 ショッピングセンターの入り口に設置された、アルコール消毒スタンド。床には1.5m間隔をあけるように促すサインがある)

これで着用義務が残るのは、公共交通機関と旅客機・空港、そして中等教育学校となった。業界によっては独自の決まりを設けることができるらしい。病院や保健所、理学療法施設、教会などは、場所によってはマスク着用が義務となっているところがある。

もともとマスクの着用は、2020年12月1日から義務化されたもの。対象は公共の屋内空間、例えばお店や大学のキャンパス、美術館だった。ただし、一人一人に指定された場所があり、距離が保てる場所ではマスクは外してもよい。わかりやすい例は、教室で席に座って授業を受ける場面だ。また、13歳未満の子どもには義務はなく、3歳以下の子どもにマスクは適さないと政府は述べている。

それよりも半年ほど早い2020年6月1日に義務化されたのは、公共交通機関でのマスク着用。乗り物内に限らず、駅の構内やプラットフォーム、バス停などでも必須。ただし、タクシーで客が自分一人の場合はマスクを外すことが可能だ。

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(筆者撮影 2021年7月 公共交通機関におけるコロナルールのポスター。上から3つ目が'マスク着用義務)

これらを守っていない場合、そして注意された際に従わなかった場合には、95ユーロの罰金が科されるらしい。

オランダで見かける、手首マスク 他

日本とは対照的に、オランダでは他多数の欧米諸国と同じように、マスクを着ける習慣がなかった。従って、日本では見ないようなマスクの着用法(もしくは非・着用法)を目にすることがあった。

例えば、買い物の際、店内ではマスクは義務なのだが、お店のドアを出る瞬間に外す人が多かった。そして外したマスクは、カバンの中、ポケットの中...そして、手首マスクに変身することもしばしば。

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(iStock - Fotoeventis 外したマスクを手首につける人は、ちらほら見かける

顎マスクは、日本でも珍しくないが、オランダで多く遭遇する。大学の廊下をコーヒーカップを手に歩く人、駅のプラットフォームでサンドイッチを食べる人、電話で話している人(声がこもるのを防ぐため)。一方でオランダでは見かけたことがないのは、いかにも不衛生そうな(少なくとも私にはそう見える)口の部分が開く食事用マスクや、食べ物の味がしなくなりそうな(食事を楽しめない!)食事用・鼻だけマスクなどだ。

顎マスクと言えば、顎に支えがある透明マスクが日本では使われているそうだが、これにもオランダではまだ遭遇したことがない。

お次は、テーブルに置かれた持ち主不明マスク。マスク着用が義務の廊下を歩いた後、チームで話し合いをするために丸テーブルを囲んで座り、マスクを外す。テーブルの上に無造作に置かれたマスク。会議が終わってさあ帰ろう、出口まで廊下を歩くときはマスクをしなきゃ、とテーブルを見渡したときに事件は起こる。あれ、僕のマスク、どっちだ?  幸い私自身のものがそうなったことはない。

透明なフェイスシールドはたまにお店で見かける。オランダ政府によると、鼻と口を覆うマスクの代用としては使ってはいけないらしい。しかし店員にはお客さんとは別の決まりが課されるのか、レジに座る際、マスクなし・フェイスシールドだけで働く人もそれなりに見かけた。

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(iStock - SolStock フェイスシールドをした店員。手にはカード払い用の機器が。コロナ禍以前にもオランダではカード払いが普及していたが、コロナ禍ではさらにカード払いが推奨された)

息苦しそうな二重マスク、ロボットのような箱型マスク等、日本で見つけることができるらしいレアキャラを(日本ではレアではないのかもしれないが)、オランダで見かけたことはまだない。

付け加えると、お店の入り口で体温測定器をおでこに突き付けられたり(そもそも体温測定をしている場所を見たことがない)アルコールをシュッシュと誰かに手にかけられることもない。買い物カートの持ち手を拭く店員さんが場所によってはいたくらいだ。

さらに余談だが、西洋人の平熱は日本人に比べて高く、37度前後らしい。彼らが日本のお店の入り口で体温測定をされた場合には「微熱」とされてしまうかもしれない。日本人の中にももちろん代謝がよく、平熱が高い人がいる。彼らたちはどうしているのだろうか。これは私の素朴な疑問だ。

なぜマスクをしないの?なぜするの?

マスクに対する態度や考え方は、このように国によって異なる。オランダにはどのような背景があるのだろうか。

もともと、オランダ政府自体がマスク着用を推奨し始めたのが遅かった。

オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)や内閣府は初め、マスクには感染予防効果がないとしていた。それよりも、人との間隔を保つことが大切だ、と。マスクをしていることで偽の安心感を持ってしまう、マスクの感染予防効果に関する研究には結論が反対のものもある、とも。もちろんそのスタンスは幾分か変わり、マスクが一定の場所では義務化されるまでに至ったわけだが。しかし当初の当局のスタンスがあったからだろうか、マスクに絶対の信頼を置いたり、マスクを常時必須だと考え行動している人は少ないようだ。

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(筆者撮影 2020年4月 オランダの各地で、大抵は週1・2の頻度で開催されるマーケット。屋外なのでマスク着用義務はないが、他人と1.5m間隔を保つように黄色い立て看板に書いてある)

なぜマスクをしないのか、とオランダ人の友達数人に尋ねたら、人との間隔を保っていればマスクは不要だから、という意見がちらほら。めまいや頭痛がするからという理由も複数人から聞いた。

日本では、マスクを着けて熱中症になるケースが増えている、マスク頭痛を抑えるために薬を飲む人がいる、と私が伝えたところ、「えっ本末転倒じゃん!もっと体の声を聴きなよ」と驚かれた。その意見は私もごもっともだと思う。

逆に、オランダ人の考察によると、日本人がマスクをそれほど着ける理由には以下のようなものがある(参考ウェブサイト:Trouw.nlCurioctopus.nl)。

まず、マスクは帽子やスカーフのように、ファッションの一部となっていること。ただ、単なるファッションであれば人それぞれでいいはず。皆がこぞってつける、それどころかつけないとダメという感覚になるなんてことはないだろう。

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(iStock - Fiers 2020年6月渋谷)

そこで働いているのが同調圧力だろう。日本ではKY:空気読めない問題がある。だからだろうか、マスクをしないことは集団から外れることであり、周りに嫌われることであると感じる人が多いのかもしれない。対してオランダでは「空気は読んではいけない」とされることが多い。ほとんどの場所で着用義務がなくなった今、着けたい人は着けているしそうでない人は外している(後者が大多数)。

さらには教育や社会の在り方も関連してくる。「○○してはいけない」「○○しなくてはいけない」という義務を重んじる一方、「○○以外はしてもいい」という権利について語られ議論されることは少ない、というのが欧米に比べた日本の特徴だ。これは私自身がアメリカに住んだりオランダ留学をしたりする中で言葉に落とし込めずとも感じてきたことで、Facebookで見つけた投稿が分かりやすく言語化してくれていたのでシェアする。

「日本人って我慢強いよね」「NOと言わないよね、言わせるのが難しい」というのも外国人の友達からよく聞くコメントだ。もちろん、全体の和を尊重することや辛抱強くあることを全否定しているわけではない。しかし、仲間外れを恐れるが故に自分を犠牲にしてまでも周りに従うというのは度が過ぎていると思う。自分が集団に従うことで、同じように我慢している人にも暗に圧力を与えてしまい、一向に終わることは無い - むしろ集団圧力は強くなっていく気がする。

マスクを着けることに慣れてしまったため、取るのが怖い、素顔を見せるのが怖い・顔に自信がない、という話は珍しくない。マスクをせずに外に出るのは、メイクをせずに外に出るのと同じようなものと感じる人もいる。といっても残念ながら(?)私自身メイク経験がほぼなく、すっぴんで外出する怖さというものを感じたことがないのだが...強いて言えば、服を着ずに出歩くようなものなのか。

人との関わりを避ける手段、という説もあった。確かに、イヤフォンにマスクにサングラスをして、スマホをいじっていたら、声をかけづらい。それどころか、不審者のように見えてしまうこともある...そのようなことも、国によってはマスクが人々にあまり受け入れられていない理由の一つなのかもしれない。

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(iStock - kmatija サングラスの模様は可愛らしいが、全体で見ると怪しい人に見えてしまう...)

まとめると、日本でマスク文化・マスク信仰がこれほど浸透し、しないという選択をすることに対する恐れがある背景には、仲間はずれになったり目立ったりすることに対する恐怖、そして集団に従った方が安心という考え方の癖があるからだろう。

ちなみに、マスクの浸透度はアジアで特に高い傾向にある、ということに留学先大学の友達と話しているときに気が付いた。欧州内でも、国によってはマスク着用が義務で、着用率が高いところもあるようだが。規制や文化・国民性等が複雑に絡み合って、着用率やマスク着用に対する捉え方の傾向が表れる。

  

オランダや日本のこれらの行動や考え方を良いと捉えるか悪いと捉えるか、そもそも良し悪しというラベルを貼るかどうかは、私たち一人一人の価値観によって異なる。また、私自身の考え方には、日本と海外を両方経験しているという背景から、各国の傾向を両極端に捉えてしまうというバイアスがかかっていることは否定できない。ただ、今回の記事を通して、日本の当たり前は他国の当たり前ではなく、その逆も然りだということを伝えられたら、そして当たり前を見直すきっかけになったら幸いだ。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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