農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
オランダ語でキャベツの世界を探る
タケノコ型キャベツとかけて通勤時間帯ととく。そのこころは?
オランダ語話者に言わせれば、そのこころは両方とも頂点がある、ということになるだろう。
タケノコ型キャベツはオランダ語で「spitskool」で、タケノコのように上部がとんがっている。対してラッシュアワーは「spitsuren」。「Tijdens de spits」「buiten de spits」はそれぞれ「ラッシュアワー中」「ラッシュアワー外」という意味で、電車賃の割引に関連してよく見かける。
私自身がこの二つの単語の共通点に気づいたのはつい最近の事だ。
もうお気づきの方もいるかもしれないが、spitsには、頂点・ピークという意味がある。
Spits=頂点・kool=キャベツ、spits=ピーク・uren=時間、ということだ。
今回は、「kool(発音はコーㇽ)」という単語を皮切りに、オランダで出回るキャベツの仲間(オランダ語でkool familie)を紹介する。ミニ・オランダ語講座、オランダの買い物ミニガイドともなっているため、興味のある方の参考になれば幸いだ。
キャベツ色々
オランダでは主に、3種類の結球性のキャベツが手に入り、色で区別されている。
Witte kool 白キャベツ(キャベツ) 白に近い薄緑のものもあれば、濃いめの薄緑のものもある。だが、「緑キャベツ」はまた別にあるため、専ら「白キャベツ」と呼ばれているのだ。葉はタケノコ型キャベツに比べて硬い。千切りにして生で食べるなら、少なくとも私はタケノコ型キャベツを選ぶだろう。
Rode kool 赤キャベツ(紫キャベツ)も同じような形・葉の硬さだ。コールスローやザワークラウト、炒め物などに使われることが多い。
Groene kool 緑キャベツ(ちりめんキャベツ・サボイキャベツ)は葉がデコボコしていて、濃い緑色なのが特徴的。
頂点が結球するキャベツとは異なり、側芽が結球するのが芽キャベツ。オランダ語ではspruitenもしくはspruitjesと呼ばれる。Spruit=スプラウト=芽。語尾に-enを付けると複数形になり、-tjeは小さいもの、という意味を名詞に付け足す。つまり、「スプラウトの複数形」もしくは「小さいスプラウト」という名前だ。
冬から春先にかけて、オーブン焼きなどとして調理される、オランダでは定番の野菜だ。私はオランダに来てから初めて口にして、そのほんのりした苦みと甘みの組み合わせに恋に落ちてしまった。毎食のお米の代わりにも、3時のおやつにも芽キャベツを食べられるほど...というのは言い過ぎ...ではないほどの好物なのだ。
さて、お次は農家のキャベツ「boerenkool」。Boer=農家という意味だ。日本語ではケール。秋になると目にする機会が増える。
下の写真は近所の農園で売られていたもの。1株1ユーロ、お買い得!と思って勢いで買ったのは良いが、まず持ち帰るのに一苦労。リュックには入らず。自転車の荷台になんとか紐で括り付け、ケールをふさふさモサモサ揺らしながら帰ってきた。そして帰宅してケール一束を手にし、我に返った。こんなにたくさんのケールをどう食べよう。ちぎって塩でもんでサラダ。刻んで炒めてチャーハン。油を塗ってオーブンで焼いてケールチップス。この一株で、一年分のケールを食べつくした気がした。
ケールの一種、「palmkool」は直訳すると手のひらキャベツ。Boerenkoolより葉が平たく、手のひらのよう、と言えるのだろう。葉の表面はサボイキャベツのようにデコボコしている。日本ではカーボロネロや黒キャベツと呼ばれる。名前の通り色は黒み掛かる緑。
オランダで一般的なケール類の食べ方は、なんといってもstamppot。茹でジャガイモとケール類を混ぜて、マッシュして、上にソーセージとソースを乗せて食べる(以前の記事でも紹介した)。面倒くさい時に鍋一つで簡単にできるずぼらレシピ、と説明する人もいる。
「Bloemkool」は花キャベツ。さて、なんの野菜でしょう。
正解はカリフラワー。対してブロッコリーは英語・日本語と同じく「broccoli」と呼ばれる。
中華キャベツ「Chinees kool」、これは白菜のこと。日本で見かけるような、野沢菜・小松菜・ターサイなど豊富な種類のアブラナ科の菜っ葉は、アジア系スーパーに行かない限り、ほとんど見ない。唯一見かけたのが青梗菜。英名はBok choy、オランダ語ではPak soi。読み方を間違えたのか?というような微妙な綴りだ。
先月、人生21年目にして初めて白菜を収穫したのだが、お店に並ぶ色白で透明感のあるあの白菜を得るために、どれほどの外葉を取り除かなければいけなかったかに驚いた。さらに衝撃を受けたのが、オランダでは菜の花を食べる習慣があまりないらしく、蕾ができ始めたものは廃棄してしまうということ(少なくとも私が訪れた農園では)。なんと一畝の半分・50株以上を堆肥の山に持って行ったのではないかと思われる。
価値がわからなければ、無価値なのと同然。これはオランダと菜の花に限られた話ではなく、他の野菜・部位や、外国では食べられているのに日本では、というケースもあるだろう。
コールラビはオランダ語でもそのままkoolrabi。UFOのような不思議な形をしていて、肥大した茎を食べる。シャキシャキとした触感で甘みがあり、キュウリやリンゴのような感覚で生でサラダに入れたり、ポタージュにしたりと応用が利く。スーパー等で見かけるのは大抵薄緑色のもので、紫色は珍しい。
名前の由来は、ドイツ語ではkohl=キャベツ(オランダ語もほぼ同じ kool) Rübe = Rabi=カブ (スイスドイツ語) 。つまりキャベツ+カブという意味らしい。
そして最後はkoolraap、ルタバガ。独特な甘みのあるカブだ。私が気に入っている調理法はシンプルに蒸し焼きにして、バルサミコ酢と塩コショウで食べることだが、フライドポテトやマッシュポテトのようにしたり、スープや炒め物に入れたりとこれもまた応用が利く。
語源を調べてみると、kool=キャベツとknolraap =カブの組み合わせらしい。ちなみにknol=カブ。
つまり、キャベツ+カブで、なんだ、コールラビと同じ語源?ただ、茎が肥大するコールラビと違うのは、ルタバガは大根などと同じように根っこが肥大するというところ。
これで「kool」のつく野菜の紹介は終了。個人的には、野菜の中でもアブラナ科(今回紹介したキャベツの仲間や大根、ルッコラ等を含む)は大好物。記事を書いているだけで、美味しい料理が頭の中に浮かんできてお腹が空いてきた。
おまけ
大学の園芸の授業で自分の好きな作物を選び、その栽培方法を調べてレポートにまとめた。そのついでに栽培動画をイラスト付きで作ってみたので、興味のある方は是非ご覧ください。
著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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