農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
ミミズの楽園 ~オランダのミミズ堆肥生産の事例~
オランダ中部、アメルスフォールト市の端には、何千ものミミズが暮らしている。
昨年12月の中旬に訪問してきたのはStadsWormerijというミミズ堆肥を作る会社。2019年に生産を始めたスタートアップだ。
渡された住所を入力したスマホの地図を片手にしてたどり着いたのは、住宅地のそばの野原にある倉庫。中に入ると、どうやらミミズ堆肥以外のことも起こっている様子(後から聞いた話によると、ここは市有の施設で複数の団体が借りているとのこと)。StadsWormerijの代表者の名前を告げると、あっちだよと倉庫内の奥にある掘っ立て小屋に案内された。
中から出てきたのは、ひょろりと背の高い男性(オランダ人のステレオタイプ)、StadsWormerijのリーダー。合掌して「Hallo」と迎えてくれた(コロナで握手禁止になってから、オランダではこの挨拶の方法が広まっている。以前は「日本出身」と告げると合掌して挨拶してくれる人もいたのだが、多分これはタイなどの一部の地域における慣習が、東アジアのステレオタイプとして間違って広まったもの...)
メールでは「英語は苦手だから」とオランダ語でやり取りをしていたので、話をする際に言語が壁にならないかと心配していた(スマホの翻訳機を使ったとしても)。しかし、彼の英語能力は私のオランダ語能力よりも少し上で、英語8割オランダ語2割くらいで特に大きな問題もなく話をすることができた。
事業内容や考えについて色々話を聞いてきたわけだが、今回の記事ではStadsWormerijの取り組む課題を紹介する。
オランダの生ごみ事情と課題
オランダでは、ごみの分別・収集システムが確立されている。自治体によっても違うが、下の写真の例では、ごみは7つに分類されている。
集合住宅地では、道路脇などに紙、プラスチック等の容器、生ごみ、ガラス、その他のゴミ(燃えるゴミ?)の回収箱が設置されている。それを週に何度か、大型のゴミ収集車が空けに来る。
しかし、まだ分別が徹底されてはいないのが現状だ。
ある調査によると、その他のゴミの4割は生ごみで占められている。
オランダではその他のゴミは焼却処理されるが(やはり「燃えるゴミ」の分類か)、生ごみは水分を多く含むため、エネルギーをより多く消費する。さらに、生ごみの持つ栄養分を活用すればより多くの価値を生むことができるのに、焼却処理では機会損失が発生してしまう。
実は他3人の学生とアパートに住む筆者も、つい数か月前までは生ごみをその他のゴミと一緒に捨てていた。理由は、生ごみ専用の回収箱が近くになかったから。家庭によっては、10Lくらいの生ごみ用の容器を所有していて、決められた日にアパートの入り口に置いていたのを見かけた。9月ごろに、容器が欲しい人は記名を、というお知らせがアパートの入り口に貼られて名前を書いたのだが、一向に届く気配はなく。
12月になって、アパートの駐車場に大きな生ごみ回収箱が設置されたため、個人用の容器は要らなくなった。それからは生ごみはその他のゴミと分けて、ここに捨てている。
このように、生ごみ回収サービスにアクセスがないからやむを得ず、その他のゴミとごちゃ混ぜにして捨てているという家庭は少なからずあるだろう。立地などの関係で、サービスを提供するには見合わないと、既存の業者に判断される地域もある。
また、飲食店や小売店は、すでに分別はしているが回収サービスにそれなりのお金を払っている。したがって、既存の回収サービスに取って代わる、新たな付加価値のあるサービスの需要は見込める。
侵される土の健康
主にコケを原料とした、ピートモス。土壌改良剤の材料にしばしば含まれ、ブルーベリー栽培や園芸にも使われる。植物を原料としていて、自然界から切り出して作られるため、オーガニック農業でも使われることがある。
しかしこのピートモス、実は化石資源なのだ。何百、何千年もの月日をかけて、ミズゴケなどが堆積し、腐植化してできていく。一年に堆積するのはたったの1㎜だとか。それに比べてピートモス抽出機は一年に22㎝ものスピードで収穫していくことができる。まさに化石燃料と同じく、枯渇に向かってゆく資源だ。
さらに、ピートモスはその生態系において、動植物や菌類の住処になったり、水をろ過したり、炭素を蓄積したりと、重要な役割を果たしている。ピートモスを収穫すると、生態系のバランスが崩れてしまうのだ。これらを踏まえ、 欧州では、エコラベル認証の土壌改良剤においてピートモスを禁止にするべきなのではという議論が行われている。
ピートモスの使用に限らず、世界の土の健康は危険にさらされている。土壌流出、土壌汚染、土壌生態系の破壊...土の生物学的・化学的・物理的健康の向上に貢献できるものの一つが、ミミズ堆肥というわけだ。
StadsWormerijの挑戦
これらの課題に貢献するために、StadsWormerijはアメルスフォールト市の生ごみを用いてミミズ堆肥を作る。今の段階では、飲食店と小売店数件と契約を結び、定期的に生ごみを収集している。一週間に約250㎏を処理しているとか。
まずは一次発酵させ、それを餌としてミミズに与える。完成まで(確か)一年弱。発酵中の堆肥をかき混ぜたり、ミミズ堆肥を収穫したり、ほぼ手作業で行っている。ミミズの住む木製の枠や、回転式のふるいは手作りで、愛着がわいた。
生ごみ収集、そしてそれを環境にやさしい、ミミズ堆肥という形で処理することには需要が見込める。したがって、近いうちに生ごみの処理量を2.5トン以上に増やしたいという。ビジネスモデルが確立できたら、他の都市でも複製して欲しい、事業の独り占めよりもやり方・考え方が広まってほしい、だとか。
最後に
StadsWormerijを訪問してきたのは、実は2月から企業研修でお世話になるからだ。
私事だが、大学の3年目ももうすぐで半分終わる。それ以降は大学での授業はなく、企業研修・交換留学もしくは副専攻・卒業論文というまた違った課題に取り組んでいくことになる。
私の場合は2月から10週間、StadsWormerijの事業拡大企画書に取り組む。「StadsWormerij初のインターンが日本人だ!素晴らしいね!」と言われ、何がいいのか良くは理解できなかったけれど嬉しくなった。
というわけで、インターンが始まったらまた何か報告できるかもしれないので、良かったらWorld Voiceの記事を確認しに来ていただけたらと思う。
著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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