スペインあれこれつまみ食い
絶滅寸前から這い上がったイベリアオオヤマネコ 復活の鍵を握る保護センター
スペインとポルトガルがある半島、イベリア半島。この半島にはここにしかいないイベリアオオヤマネコと呼ばれる野生の猫が生息しています。2002年、地球上に生息するイベリアオオヤマネコの個体数はわずか94体で絶滅寸前とされていました。しかし先月発表された新しい調査結果によると、このオオヤマネコの個体数は2023年には2021体まで回復したことが分かったのです。
イベリアオオヤマネコとは
別名スペインオオヤマネコとも呼ばれるこのオオヤマネコは、名前の通りイベリア半島に生息するオオヤマネコです。体長は85cmから100cmほど。耳の先端と顎の部分の毛が長い点ではシベリア半島を中心に広く分布するヨーロッパオオヤマネコと似ていますが、イベリアオオヤマネコはヨーロッパオオヤマネコに比べ少し体が小さく模様が濃いのが特徴です。
絶滅寸前にまで追いやられた理由
イベリアオオヤマネコの数が絶滅寸前と言われるほどまで減少してしまった原因は複数あるようです。
まず一番の原因の考えられるのが交通事故。2002年から2019年の間に163頭ものイベリアオオヤマネコが車と衝突して命を落としました。人々の生活を便利にするために年々新しい道路が整備されていますが、一方でそれにより多くのイベリアオオヤマネコの命が危険にさらされることになっているです。さらにイベリアオオヤマネコの間でウイルスによる感染症が広がったことも個体数を減らすことになった理由のひとつと考えられています。イベリアオオヤマネコの間だけではなく、彼らの食料源の90%を占める野うさぎの間にも感染症がひろがりうさぎの数が減少したことで、イベリアオオヤマネコの個体数減少は更に進んでしまいました。
そのほかにもインフラ整備による生息地の破壊や違法な狩りなどによって、イベリアオオヤマネコは一時は世界で一番絶滅する可能性が高いネコ科の動物と言われるほど減少してしまったのです。
国レベルで取り組むイベリアオオヤマネコ保護活動
イベリア半島内にはイベリアオオヤマネコ専門の保護センターが4ヶ所(スペイン3ヶ所、ポルトガル1ヶ所)存在し、ここでは様々なエキスパートたちによる飼育繁殖が行われています。イベリアオオヤマネコの子猫のうち約30%は感染症や喧嘩などで生まれて数ヶ月以内に命を落としていまうと言われていますが、センター内には多くのカメラが設置されており、保護されているイベリアオオヤマネコの健康状態や様子は常にこのエキスパートたちによって監視されています。ここで安全に飼育されたオオヤマネコは生息に適していると判断された土地に放たれ、野生にかえされます。こうしてこの10年で約280頭ものイベリアオオヤマネコがセンターで産まれ飼育されたのにち野生にかえされました。それらのうち何頭かはGPSがつけられた首輪を装着しており、引き続き追跡や生態調査が行われるのです。
これらのセンターの活動により、2002年に「絶滅のおそれのある種のカテゴリー」が絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)だったイベリアオオヤマネコは、現在では絶滅危惧IB類(IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)となり、絶滅寸前の危機を逃れることができました。しかしまだ絶滅する危険性は十分にある状態に変わりはありません。保護活動に取り組む関係者らは2025年までに頭数を3000から3500頭まで増やし、レベルを絶滅危惧II類 (絶滅の危険が増大している種)まで引き上げることを目標とし、現在も引き続き懸命な保護活動を続けています。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon