スペインあれこれつまみ食い
復讐?スペイン沖でシャチがヨットを襲撃する事例が多発
数年前からスペインの海でシャチがヨットに襲いかかるという事案が多数報告されています。今のところまだ死者などは出ていませんが、行政はシャチとの接触が多く確認されている海の航海は控えるよう、または魚群探知機などを使用してシャチには近づかないよう呼びかけました。非常に知能が高く社交性もあるシャチは最強の海洋生物とも言われているほど危険な動物ですが、人間を襲うことはほとんどないと言われています。ではどうして最近このエリアでシャチがヨットを攻撃する事例が多発しているのでしょうか。原因は未だはっきりしていませんが、専門家たちのあいだで様々な憶測が飛び交っているようです。
これまでの被害件数は500件超え
シャチとヨットの接触が最初に報告されたのは2020年8月31日。ガリシア地方のラスリアスバイシャス地方で2隻のヨットからシャチに襲われたという報告がありました。そのうち1隻のヨットの乗員がシャチに攻撃を受けている瞬間を映像で捉えていますが、ラダー(舵)を目掛けてシャチが攻撃を加えている様子がはっきりと写っており、乗員の「ラダーを壊したぞ!」という声も聞こえます。シャチを専門に調査を行う団体によると、最初の被害が報告された2020年に同様な被害が52件起き、翌年2021には197件、2022には207件と被害件数は年々増えているようで、今年は既に47件の被害が起きているのだそうです。死亡事故に繋がるような重大事故はまだ発生してませんが、被害を受けたヨットの中には沈没してしまったりこれ以上航行することができなくなるほど損傷を受けてしまったヨットも少なくありません。
ヨットを襲うシャチ集団「グラディス」
シャチは日本を含む世界中に生息している動物ですが、全てのシャチがヨットを襲うわけではありません。スペインにはイベリアシャチと呼ばれるシャチが住んでおり、このシャチは冬から春の間をスペインとモロッコを隔てるジブラルタル海峡で過ごし、夏から秋にかけてマグロを追って扇状に北へ移動するという習性を持っています。イベリアシャチは現在50頭ほど確認されていますが、ヨットを襲うのはその中の15頭で構成されたグラディス(Gladis)と呼ばれるグループだけなのです。さらにグラディスの全てのシャチがヨットを襲うわけではなく、グラディスの中にも攻撃するシャチとそれを遠くから傍観しているだけのシャチもいるのだとか・・・。シャチには言語コミュニケーション能力があり、グループによって方言のような言葉の違いがあります。グラディスのヨットを襲う行為はこのグループの中だけで代々受け継がれたもので、他のグループには今のところ同じようにヨットを襲う習性はありません。アベイロ大学の生物学者アルフレド・ロペス氏はグループの長老である白グラディスがヨットを襲い、他の若いシャチたちにやり方を教えていると指摘しています。
復讐?トラウマ?考えられる原因
グラディスがなぜヨットを攻撃するのか。理由は謎に包まれていますが、専門家の中ではいくつかの仮説が立てられています。
一つは単に遊んでいるという説。シャチは人間に攻撃しているのではなく、毎回ヨットのラダーに向かって襲いかかります。その後船が沈没し始めても見向きもしないことから、別に人間を食べるのが目的ではなくただただヨットを沈めることを楽しんでいるという説です。二つ目は、過去に船にぶつけられたり違法漁船の網にかかってしまったことに対してトラウマを持っておりその復讐をしているという説。三つ目はシャチたちが捕食しているマグロを持っていってしまう漁船に恨みがあるという説です。このように様々な仮説が立てたれていますが、現段階ではどの説にも決定的な証拠はありません。
ヨットに乗れない夏が来る
グラディスが頻繁に出現するカディスはスペイン南部の有名なリゾート地。夏は海水浴を楽しみに全国から観光客が集まる超人気ビーチリゾートなのです。ビーチでカディスを満喫する観光客が多くいる一方で、お金持ちらは自前のヨットで沖に出かけるのが定番の夏の過ごし方のようですが、今年はヨットでの航海は自粛しておいた方が吉なのかもしれませんね。すでに気温が40度近くまで上がっているスペイン南部。ヨットに乗れない夏が、もうそこまで近づいています。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon