日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
コロンビアコーヒー生産者の象徴フアン・バルデス 3代目の突然の訃報
コロンビアで知らない人はいない「フアン・バルデス」。コロンビアコーヒーのイメージキャラクターとして1959年にコロンビアコーヒー生産者連合会が作り上げた架空のキャラクターです。KFCのカーネル・サンダースやマクドナルドのドナルド・マクドナルドのように、フアン・バルデスはコロンビアコーヒーの顔。コロンビア人だけでなく世界のコーヒー愛好家らはこのキャラクターの顔を見るとすぐに「コロンビアコーヒー」を連想するのです。
3代目フアン・バルデスの訃報
現在フアン・バルデスを務めるカルロス・カスタニェダさんは歴代3代目のフアン・バルデス。世界中で行われるコーヒーイベントにコロンビアコーヒーの顔として登場し会場を楽しませていたカルロス・カスタニェダさんは、日本のコーヒーイベントにも度々姿を表していました。コロンビアコーヒー大使として世界中に愛されていたカルロスさんでしたが、4月27日心臓の手術後の合併症が原因で亡くなったとコロンビアコーヒー生産者連合会から発表があったのです。58歳という若すぎる死に国内メディアは一斉に彼の訃報を報じ、コロンビアのコーヒー関係者に限らず、政治家、著名人らも彼の死を惜しみ追悼のコメントをSNSに次々と残しました。
Tenemos que comunicar la triste noticia del fallecimiento de nuestro amigo Carlos Castañeda quien por 20 años estuvo al frente del personaje Juan Valdez. Carlos, gran y comprometido compañero de trabajo nos deja también con los mejores recuerdos.
-- Federación Nacional de Cafeteros (@FedeCafeteros) April 26, 2024
Extendemos un fraternal saludo... pic.twitter.com/q3vexY3Ba0
「20年にわたりフアン・バルデスのキャラクターを担当してくれた友人、カルロス・カスタニェダの訃報を伝えなければいけません。偉大で献身的な仲間であったカルロスは、私たちに最高の思い出を残してくれました。」
Con profundo pesar debo comunicar a Colombia que Carlos Castañeda, ha fallecido.
-- German Bahamon Jaramillo (@GermanBahamon) April 26, 2024
Un ser humano absolutamente especial, con quien tuve la fortuna de compartir en mi visita a todos los departamentos cafeteros de colombia y otros paises en el mundo.
Su sonrisa era la... pic.twitter.com/PmUtkw1zaG
「彼はコロンビアのコーヒー生産地や世界各国を共に訪問した本当に特別な方でした。彼の笑顔は彼の純粋な魂を表れです。カルロスはコロンビアのコーヒー生産者の善良さ、粘り強さ、謙虚さを忠実に表現していたフアン・バルデスでした。」
Gracias Carlos por personificar a Juan Valdez, nuestro ícono de la colombianidad. Tu partida nos deja un vació enorme. Gracias por los momentos compartidos. Descansa en paz un fuerte abrazo a la familia @JuanValdezCafe y a todos los caficultorespic.twitter.com/1NzT4hBYAn
-- Carlos Vives (@carlosvives) April 27, 2024
「コロンビアの象徴であるフアン・バルデスを演じてくれてありがとう。あなたの旅立ちは、私たちの心に大きな空白を残します。分かち合った時間をどうもありがとう。」
世界的に有名な歌手カルロス・ビベスはカルロス・カスタニェダさんと交友があり、コンサートで彼をステージに招待したこともありました。
カルロス・カスタニェダさんはアンティオキア県のコーヒー名産地アンデス地区出身。10人兄弟の長男として父親のコーヒー農園を受け継ぎ経営していたごく普通のコーヒー生産者でした。そんな彼がコロンビア生産者連合会によって3代目のフアン・バルデスに選抜されたのは2006年のこと。その年から彼の人生は大きく変わり、亡くなその日までフアン・バルデスとしてコロンビアコーヒーのPRに貢献し続けてきたのでした。
そもそもフアン・バルデスって?
フアン・バルデスがコロンビアのコーヒー農家の象徴といわれる理由、それはその服装にあります。彼の出で立ちは、コロンビア生産者連合会が設立されたアンティオキア県のコーヒー農家の姿をよく表しているのです。
まず彼が被っている帽子はイラカ椰子の葉からできたもの。天気の変動が激しい山の中での農作業ではこの帽子を欠かすことができません。コロンビア国内では地区によってその地特有の帽子が使用されますが、この帽子は特にアンティオキア県の農家によって使用されています。またフアン・バルデスが肩からかけているのはポンチョ。コロンビアではルアナと呼ばれます。コーヒー生産地の朝晩は特に冷え込むため、こういった羽織ものは欠かせません。太陽がのぼり気温が上がってくると、コロンビアのコーヒー農家らはなぜかポンチョを必ず肩にかけます。フアン・バルデスのようにシャツを羽織ってポンチョを肩からかけるスタイルは、コーヒー生産地では定番スタイルとなっているのです。
さらにいつもフアン・バルデスが引き連れているラバもコロンビアのコーヒー農家に欠かすことはできません。ラバは馬とロバの交配種。脚力が強く回復も早いとされているラバはコーヒー農家の大きな味方。コロンビアのコーヒー生産者は山の急斜面に位置しているため、車によるコーヒーの運搬が困難な場所が多いのですが、ラバを使うことで車が入れないような険しい山道でも楽々コーヒーを運ぶことができるのです。
カルロス・カスタニェダさんが亡くなったことにより、現在コロンビアにフアン・バルデスはいなくなってしまいました。まだ具体的な発表はされていませんが、今後4代目フアン・バルデスを決めるための選考が行われることは間違いないでしょう。顔や背格好がフアン・バルデスのイメージに近いだけではフアン・バルデスにはなれません。フアン・バルデスになるということは、54万世帯のコーヒー生産者を代表するコーヒー大使になること。選考の基準にはコーヒーに関する知識や生産者との経験ももちろん問われるのです。世界中に愛されたカルロス・カスタニェダさん。彼の意思と功績を継ぐ4代目フアン・バルデスは誰になるのか、今から発表をとても楽しみにしています。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon