日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
焼失するコロンビアの自然 エルニーニョ現象発生が与える影響
世界一雨が降る国コロンビア。ただでさえよく雨が降るのにも関わらず、2020年にラニーニャ現象が発生したことによってほぼ毎日のように雨が降り続く日々が3年近く続きました。この雨で各地で地滑りによる災害が相次ぐほか、日照不足による農作物の不作など、国内のあらゆる地域で影響を受けたことは記憶に新しいところ。そんなラニーニャ現象が去年やっと終息し、通常通りの気候が戻ってきたと思っていた矢先、今度はエルニーニョ現象の発生が発表されました。ラニーニャ現象とは反対で、エルニーニョ現象が発生するとコロンビアでは降水量が減ってしまいます。四季がなく乾季と雨季が交互に訪れるコロンビア。今は多くの地域が乾季にあたりますが、オンダ県では43.8度と観測史上最高の気温を記録し、首都ボゴタでも平均気温を10°以上上回る25.8°を記録するなど、各地で記録的な暑さが続いています。
至る所で発生する山火事
雨が降らないコロンビアで現在深刻な問題になっているのが山火事。今年に入ってから首都ボゴタ市周辺のいたる地域で山火事が相次いでおり、ペトロ大統領は自然災害宣言を発表し国外からの援助を求めているほか、ボゴタ市のガラン市長は空気汚染による健康被害を最小限にするために不要な外出を控えるよう市民に呼びかけています。
いつも雨や湿気で湿っているはずのこの地域。通常だったら雨が降れば消されているはずのバーベキューや焚き火の不始末が、雨が降らないせいでどんどん燃え広がり山火事へと発展するケースも少なくないようです。また放火が原因の山火事も報告されており、各地で防犯カメラに収められた放火の瞬間の動画が拡散されたり逮捕者がでたりと、嫌なニュースが絶えません。環境省のスサナ・ムハマド大臣はこれらの山火事の95%が人為的な要因で起こったものだと指摘。1週間で26人が山火事を引き起こしたとして逮捕されました。
1月末までに7400ヘクタールが焼けてしまったとされているこれらの山火事。これほどまで被害が広まってしまった原因のひとつとして、森林伐採の対策として50年以上前に行われた植林活動が関係していると指摘する声もあります。この植林活動では早く木が育つように本来コロンビア原産ではないユーカリの木が海外から持ち込まれ大量に植えられました。他の木よりも燃えやすいと言われているユーカリの葉が落ち、地面に敷き詰められていたことが、一部の地域で予想以上に被害が広がってしまった原因だと言われています。
生態系にも影響
コロンビア、ベネズエラ、ペルー、エクアドルの湿原に生息する植物フライレホン。空気中の水分を取り込み地中の水分量をコントロールする性質をもつこの植物は、その地域の生態系を守るために欠かせない存在。しかし今回の山火事でこのフライレホンが生息する地域が多く被害を受けているというのです。
数年前、コロンビアではこのフライレホンをモデルとした「フライレホン・エルネスト・ペレス」という名のキャラクターが話題を集めました。このキャラクターはフライレホンのような植物が生物多様性を維持するためにどれだけ大切な役割を担っているのかを、テレビやSNSを通じて発信する活動を行なっており、このキャラクターのおかげで多くの国民がフライレホンの重要さを認識していました。それだけに、この山火事はたくさんのコロンビア人にとってとてもショッキングなニュースとなってしまったことでしょう。今回焼失してしまったフライレホンが元通りになるまでは最低50年はかかると言われています。
Los incendios forestales no son un chiste. La vida de muchas plantitas, animales y frailejones está en peligro.
-- Frailejón Ernesto Pérez (@soyelfrailejon) January 25, 2024
¡Por favor, humano, ayúdanos a que no se cree y no se propague más el fuego en los páramos ni en ningún ecosistema. pic.twitter.com/OqRrCEBJPi
エルニーニョ現象が与える他の影響
エルニーニョ現象がもたらす不安は山火事に限りません。農業が盛んなコロンビアでは、この降水量の不足が食糧不足や食料品の価格高騰を招くのではと国民の間で不安の声が相次いでいます。コロンビア政府はこのエルニーニョ現象による農家の損失を少なくするため、小規模農家を対象に約7千もの対策キットを配布しました。雨の不足は畜産農業にも影響を与え、今後肉や牛乳、卵などの価格が高騰する可能性もあるようです。
また、国民からはこのエルニーニョ現象が大規模な停電を引き起こすのではないかと言う心配の声も上がっています。水が豊富なコロンビアでは国内で消費されるエネルギーの85%を水力発電でまかなっているため、エルニーニョ現象によって降水量が不足しそれが発電に影響を与えるのではないかと考えられているからです。これについては発電事業者協会のグティエレス会長が「貯蓄ダムの水が慎重に管理され、他の発電方法が稼働していれば停電は起こる事はない。それほど貯蓄量と供給には余裕がある」と発言していますが、このエルニーニョ現象が長期化すれば停電の可能性も否定できなくなってしまうでしょう。
ラニーニャ現象が発生していた3年間、あれほどまでに晴れの日を望んでいたのにも関わらず、今度は雨を望む日々が訪れるなんて、誰が予測していたでしょう。天気は神頼み。テクノロジーがここまで発展した現代でも、こればかりは我々人間は手も足も出ません。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon