日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
コロンビアからの移民が歴代最多 その理由は?
毎日コロンビアのニュースの見出しをさーっとスクロールしながら読み流すことが日課になっているのですが、「コロンビア移民 過去最多」という見出しを見つけ思わず手を止めました。隣国ベネズエラからコロンビアに入国してくる移民がまた増えているのかと思いきや、どうやら外国に出ていくコロンビア人の数が急激に増えているとのこと。移住していくコロンビア人の多くが若い世代の様で、これから国を背負っていくはずの若者たちが海外に流出してしまうことに「国にとって大きな損失になる」と専門家は話しています。
50万人越え
紛争に関するデータを集め分析する機関であるCERAC(Centro de Recursos para el Análisis de Conflictos)は先日、2022年に海外に移住したコロンビア人の数を発表しました。下の画像はコロンビアのメディアNoticia Caracolがニュースの中で紹介した表ですが、90年代からこれまで20万人前後で推移していた移住者の数が2022年に入って3倍近くに増えていることがわかります。その数は547.000人と過去に見ないほど多く、経済・治安危機が起きた99年〜01年ごろの移住者の数よりも圧倒的に多いのです。
移住先はアメリカ、スペインが圧倒的に人気の様ですが、近年ではカナダやチリに移住するコロンビア人も増加しています。また、メキシコを目指すコロンビア人も統計的には多いですが、そのほとんどが最終的にアメリカを目的地としていると考えられています。
なぜ移住するのか
CERACのホルヘ・レストレポ代表はこれほどまでに移住者が増えた理由について、一概には言えないとは言いながらもいくつかの考えれる原因をあげています。
まず考えられるのは為替。数年前まで1ドルの価値は3800ペソ程度でしたが、ここ最近では5000ペソ近くまでドルの価値が上昇しています。つまりコロンビアに家族を残し出稼ぎ目的で移住したコロンビア人は、この時期にドルを稼いでペソを送金することでこれまで以上に多くのお金を家族に送ることができるのです。「行くなら今がチャンス!」そう思って移住を決意したコロンビア人は少なくないことでしょう。
その他に考えられる理由は経済の悪化と就職難。先日発表されたコロンビアにおける2023年1月の失業率は13,7%でした。パンデミックから回復の兆しは見せているもののこの国の失業率は依然として高く、最低賃金も日本円で月3万円程度。さらに貧富の差が激しく、生まれた家のお家柄で将来が決まっているとは言っても過言でもないのがコロンビアなのです。大学で工学部を専攻しアメリカに移住した知人は、コロンビアでエンジニアとして働くよりもアメリカでホットドックを売っている方が儲かると言っていました。パンデミックで職を失ったコロンビア人たちが入国緩和を機に移住を決意したということも考えられるでしょう。
また金銭に余裕のある中上流階級の家庭では、将来的に良い職に就ける様にと子供を外国の大学に送り出すことも珍しくありません。外国でいきなり仕事を探すことは大変ですが、その国の大学に行かせることでビザを取得することもできますし、卒業後に現地で就職活動がしやすくなるのです。
最後にこれは私の意見に過ぎませんが、SNSの普及によって情報集めが容易になり、移住後の生活がイメージしやすくなったのも理由の一つとしてあげられるのではないかと考えています。若者に人気のTikTokでは、移住のコツや仕事の見つけ方などをシェアするアカウントがとても多く存在しており、その様なコンテンツをシェアしているアカウントは決まってたくさんのフォロワーを抱えているのです。
若者の流出
CERACが発表したデータによると、2022年に移住したコロンビア人の35%が18歳から29歳の若者だったそうです。これからのコロンビアを支えていくはずの貴重な人材たちが外国に出て行ってしまうことは、これからのコロンビアにとって大きな不安要素となるに違いありません。労働力や納税に関してはベネズエラからの移民たちがコロンビアで働くことである程度補えていますが、「教育や経験レベルの差を考慮するとこれはいい傾向だとは言えず、国にとって大きな損失になる」とレストレポ代表はコメントしています。
コロンビアに未来を見いだせず、アメリカンドリームを求めて祖国をあとにする若者たち。日本でも若者が海外に出稼ぎに出ているというニュースを最近目にしましたし、このコロンビアで起きている動きは他人事とは言えないのかもしれません。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon