ベネルクスから潮流に抗って
こんな根菜見たことある? 秋の夜長のお料理チャレンジ
毎週金曜日の夜7時半、前週に注文した野菜やチーズを自転車で取りに行く。行き先はローカルフード協同組合の地区集積所をボランティアでしてくれているお宅。
アムステルダムやブリュッセルに住んでいたときは、オーガニック専門のスーパーもいくつもあった。が、小都市に住むとそいうい選択肢は極端に減る。そんな中、ローカルフードチーム(オランダ語ではVoedsal Team) という地域の農家と提携した共同購入システムを発見した。私が住んでいるベルギーのフランダース地方、各地にある。引っ越してきてすぐ協同組合のメンバーになった。それから早10年がたつ。
日本の生協のものすごい小さいローカル版というところか。注文はインターネットで行う。共同購入できるものは主に野菜、果物、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ類)、パン、肉製品が主でかなり限られている。すべて近隣20キロメートル以内の農家や酪農家で生産されたものだ。各ローカルフードチームは集積所を担っていくれるボランティアやお手伝いで成り立つ。メンバーは注文したものを自分で取りに行くという仕組みだ。
はっきり言ってスーパーで買いたいものを買いたいときに買うよりも、そうとうめんどくさい。うちは車がないので、数キロ離れたハブまで毎週金曜日の夕方に自転車で野菜などを取りに行く。考えようによれば本当にめんどくさい。それでも、10年以上のお付き合いになっている。
この写真は「今週の野菜詰め合わせ」。季節の野菜の詰め合わせで、だいたい6〜7種類が収まって12.5ユーロ(約1500円)だ。それから1キロ大のチーズも2週に一回は買う。お肉類は月に一回。冬は2キロのりんごも欠かさない。
季節の野菜の詰め合わせは、毎週私に新しい挑戦を挑んでくる。というのもこの中にはキャベツ類、きゅうり、マッシュルームのようなよくある野菜も入っているが、半分以上が 「これは何?」 「これはどうやって料理するの?」 という見かけない野菜なのだ。重い赤キャベツがまるごと一個入っていたときには、いったいこれをどう食べろと言うんだと途方に暮れる。(正解は餃子を作る。紫色のきれいな餃子ができる)。
特に冬場は見慣れない様々な根菜がわんさか来る。右手のサツマイモ、左手のリーク(ポロネギ)の他、根セロリ、美しいロマネスコ(ブロッコリーの家族)、名前も知らない伝統種のカブやイモが数種。さて、右下の塊は何でしょう? オランダ語でじゃがいものことをaardappel (土壌のりんご)というが, この塊はaardpeer(土壌の洋ナシ)というイモの一種。多分、普通のベルギー人もあまり食べない伝統野菜。これが英語になるとJerusalem artichoke (エルサレム・アンティチョーク)という崇高そうな名前になるのが面白い。日本語では菊芋というらしい。
私には馴染みの少ない、ヨーロッパの野菜の種類の多さに驚く。白にんじん(パースニップ)、ビーツ、スクオッシュなどなど。今でこそ、スーパーフードで名を馳せているケールは、こちらでは昔から栽培されていて「農民のキャベツ」という地味ーな名前だ。硬さや処理の大変さからあまり食べられなくなったが、とてもおいしいし家庭菜園で簡単に育つ優れ野菜。
伝統野菜の多くはスーパーマーケットではあまりお目にかかれない。くせが強かったり、繊維が多くて、調理に時間がかかったりで倦厭されて、それほど流通していない。こんな根菜の数々を、どう料理するか頭を悩ませているが、それが楽しい。
一癖も二癖もある愛おしい根菜は、圧力鍋で茹でてハンドブレンダーでスープにし、クリームか牛乳で伸ばせばおいしい。この度は根セロリと菊芋でポタージュを、ロマネスコとサツマイモはニンニクとともにオーブンでじっくりグリル。レモンのゼスト(皮)とパプリカ(香辛料)をスパイスにした。
私たちは忙しい日常生活の中で、もっと早くもっと安くを常に求め続けている。でも、私はこの少しめんどくさい地場野菜を注文したり、取りに行く時間が大切なものだと思っている。リーズナブルな値段の季節の安全な野菜が手に入るし、地域の農業を応援したり活性化することができる。秋の夜長は根菜と楽しく格闘している。
著者プロフィール
- 岸本聡子
1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。