中東から贈る千夜一夜物語
緑の宝石ピスタチオの隠れた名産地ガジアンテプ
そしてもう1つ、ガジアンテプに来たらぜひお試しいただきたいのがピスタチオのコーヒー。こちらはトルコ語で「Menengiç kahvesi (メネンギチ・カフエシ)」と呼ばれています。コーヒー豆を使っていませんので、本当の意味ではコーヒーではありません。野生のピスタチオ (メネンギチ) の実を乾燥させて炒ったものをすりおろして粉にし、コーヒーを作る時のように水または牛乳を加えたものです。とてもマイルドでココアのような舌ざわり。
メネンギチにはたくさんの栄養があり、ビタミン A、B1、B6、C、E が豊富に含まれています。またセレン、マグネシウム、亜鉛、鉄分、カルシウムその他のミネラルが豊富に含まれているスーパードリンクなのです。ノンカフェインなので、カフェインを避けたいという方にもおすすめ。
ピスタチオ農家のピスタチオ収穫に密着‼
ピスタチオはガジアンテプにとって欠かせない資産。トルコでは農家は一般的にキツい仕事のわりに収入が低く、若者たちには敬遠されがち。日本と同じように、農業だけでは食べていけないという理由で兼業農家も多いです。そんな中でピスタチオの栽培はガジアンテプの農家にとってかなりの収入源になります。9 月のある日に、とある農家のピスタチオ収穫を取材させていただきました。
ピスタチオの収穫は 7 月後半と 9 月の 2 回に分けられます。7 月後半に収穫されるのは早熟のピスタチオで、スイーツなどに使われるためのものです。9 月にはピスタチオは完全に熟しきり、すべて収穫されます。
ピスタチオの収穫は家族・親族総出で行われる一大イベント。収穫期の週末には老若男女が寄り集まり、収穫に精を出すとともに、戸外で一緒に食事をしたり、子供たちは木々の間を走り回って遊んだり...なんとも賑やかです。
ガジアンテプとその周辺のエリアの農家はピスタチオの栽培により比較的潤っていますが、そんな農家を悩ますのが「ピスタチオ泥棒」なのだとか。ピスタチオが熟れ始めると、夜中に泥棒がやってきてピスタチオをごっそり盗んでいくのだそうです。ピスタチオの収穫はとても簡単で、木の下にブルーシートのようなものを敷いて木を揺らすだけ。ピスタチオがぼとぼと落ちてきます。後はブルーシートをくるくると丸めて持ち帰るだけ。
これを夜な夜なやられると農家としてはたまったものではありません。犯人は盗んだピスタチオを売りさばきます。高値で売れるので、こんなに簡単な儲け方法はありません。ピスタチオの畑は広いので、農家としては隅々まで目が行き届かないのです。これに対しても対策が早急に必要ですが...、昔ながらのやり方を続けている農家では、効果的な対策をなかなか見つけられないでいます。
個人的には犬を飼うなどしたらいいかと思いますが...、保守的なイスラム教徒の場合、犬は「不浄な動物」なので抵抗があるのかもしれません。あるいは 1 匹 2 匹の犬で太刀打ちできるレベルではないのかもしれません。実際、今回取材した農家さんは 1000 本のピスタチオの木を所有しておられました。ピスタチオ畑は延々と広がっています。泥棒としても生活が懸かっていて必死でしょうから、犬を殺さないとは言い切れません。非常に難しい問題です。
ガジアンテプとピスタチオの関係
このように、ガジアンテプとピスタチオは切っても切れない関係にあります。市内にはピスタチオ博物館まであります。入場は無料。今回の記事の内容の多くがこの博物館の展示内容に沿ったものです。ガジアンテプに来られることがあれば、ぜひこの博物館ものぞいていただきたいです (展示物には英語の表記もたくさんあります)。
そしてもちろんガジアンテプでは、ピスタチオをふんだんに惜しみなく使ったスイーツも存分に堪能していただきたいと思います。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com