World Voice

トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

塩湖のフラミンゴの大量死 ー 声なき野生生物の死骸が問いかけるものとは?

アナトリア地方で起きている水問題はトズ湖に限ったことではない

トズ湖を県境とするトルコの穀倉地帯コンヤでは深刻な別の問題が発生しています。巨大なシンクホールの出現です。2019 年に 350 ほど確認されていたこのシンクホールは、今年になって 600 にも達しています。

コンヤのシンクホール.JPGYoutube - TRT World の番組から

シンクホールは巨大で 10 メートルほどの深さに達するものも。この大量のシンクホールは、農業用の灌漑や違法な井戸の掘り抜きの直接的な結果といわれています (参照記事)。つまり、トズ湖のフラミンゴの大量死をもたらしたといわれている原因と同じものです。

干ばつが続くので、農家は水の獲得に必死になる。地下水を使わないとなると、水をどこからか引いてくる必要があります。でも水を引くためには電気が必要です。電気代は馬鹿になりません。かくしてコストを削減したい農家は井戸を掘り続けます。こうして地下水が大量に消費されることで、大規模な地盤沈下が起こります。

シンクホールが出現することで農地が失われ、必要な量の穀物を供給できなくなります。これにより生じる被害は、コロナがもたらした経済的打撃に匹敵するであろうとトルコの農業技術者会議所の代表Baki Remzi Suicmez氏はこの記事の中で警鐘を鳴らしています。

トルコ人は環境問題に無関心なのか?

十数年前から警鐘が鳴らされてきたにも関わらず、実質的にほとんど何の策も講じられてこなかったことを考えると、トルコ人は環境問題に無関心なのか? という素朴な疑問が沸くかもしれません。若い世代はどう思っているのでしょう?

トルコの若者たちと話すことで見えてくるのは、生活するだけでいっぱいいっぱいの場合、環境問題にまで頭が回らないという現状です。生きていくためにはとにかく働かなくてはならない。環境問題について声高に叫んだところでお金にはならない。気になりながらも、馬車馬のように働く日常では環境のためにできることが限られる‥というのが大多数のトルコ人の正直な意見なのではないかと思います。

作物を育てる農家にとってはとりわけ、その年の収穫量が何よりも重要なことであって、もう少し先の将来を見越したプランニングはできていません。ですから農家という個人レベルでの対策ではなく、国や地方自治体による助成や支援が急務となっています。

トズ湖で「フラミンゴの楽園」は維持できるか?

今回のヒナの大量死を受けて、トズ湖に別の湖から水を引いてくるプランが浮上しているようです。トズ湖の東側にある Hirfanli ダムからトズ湖に地下のパイプを使って水を引くプロジェクト。これにより、たとえ降水量が極端に少なくて今年のような干ばつが起きてもトズ湖には水が供給され続けることになります。このプランはまだ実行に移されていません。

先に述べたトルコ人の写真家 Fahri Tunç 氏は、アナトリア地方のアクサライ出身。トズ湖はコンヤ、アンカラ、アクサライの県境に位置しています。今回、この Fahri Tunç 氏にお時間を取っていただき、インタビューをさせていただく機会がありました。

2011 年のトズ湖と 2021 年のトズ湖。楽園から地獄へ

Fahri Tunç 氏は何十年もトズ湖とトズ湖のフラミンゴたちをずっと見守ってきました。今回のフラミンゴのヒナの大量死は大変なショックで、表現しようのない怒りを感じているといいます。Fahri Tunç 氏はフラミンゴのことを単に「鳥」ではなく、「My babies」と呼びます。

彼には頭に焼き付いた忘れられない光景があるそうです。2 年ほど前にひどい雨がアナトリア地方を襲った時に、大人のフラミンゴたちが大きな羽を傘のように広げて赤ちゃんフラミンゴたちを守っていた光景です。野生生物は本能的に赤ちゃんを守る行動に出ます。たとえ自分の命が失われるとしても。

Fahri Tunç 氏は、自然は人間のものだけではないといいます。それなのに人間は、自然があたかも自分たちだけのものであるかのように扱ってきた、と。 Fahri Tunç 氏は、先に述べたトズ湖への水の供給プロジェクトが早く実行に移されることを願っています。これにより少なくともフラミンゴのヒナの大量死という事態は避けられるはずです。私自身、トズ湖がフラミンゴの楽園としての役目をこれからも果たし続けるよう祈らずにはいられません。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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