トルコから贈る千夜一夜物語
医療ツーリズムの「メッカ」トルコは夏の本格的な観光シーズンを前に着々と準備を進める
トルコは観光大国。東と西をつなぐ地理上の位置もさることながら、見所がいっぱい。トルコに来てトルコの魅力に取りつかれたという方も多いはず。そんなトルコは、メディカルツーリズム (医療目的の観光) の行き先ランキング世界トップ10 位の中にエントリーしています。そう、トルコは知る人ぞ知るメディカルツーリズムのメッカなのです。
トルコでメディカルツーリズムの対象になる分野は、医療植毛、癌治療、歯科治療、美容整形...などなど多岐にわたります。2019 年にはトルコのメディカルツーリズムによる収益は 10 億円に達しました。そのうち 60% が美容整形による収益だそうです (こちらの記事を参照)。確かにイスタンブールでは、鼻の手術をしたアラブ系やイラン系の女性たちを見かけることが非常に多い。やはり女性の心をつかむのは美容整形なのでしょう。では、男性の心をつかむのは? この記事では、男性に特に人気がある医療分野をご紹介します。
外国人男性に一番人気がある医療分野は?
これはズバリ、植毛です。植毛とは読んで字のごとく、薄毛部分の頭皮に毛髪を直接植え付ける治療です。植毛には「自毛植毛」と「人工毛植毛」の2種類があるようですが、トルコでなされるのは「自毛植毛」。
イスタンブールは植毛で世界一有名な都市?
「イスタンブールは医療植毛で世界一有名」...そう言い切っても過言ではないと思います。イスタンブールに住んでいたころ、後頭部から前頭部にかけての頭を白いガーゼのようなもので覆った人をよく見かけました。
時にはそのガーゼが血で染まっていたりして、「暴力を振るわれたのか...? 問題に巻き込まれたのか...? 」と痛々しい思いで見たことも。さらに、そういう人たちは大概スキンヘッドに近いので、ギャングに見えなくもなく...トルコにギャングがいるのかどうかは別として、最初の頃は痛々しそうなその姿に心を痛めつつも多少の恐れを感じていました。
でも、どうも「ギャング」の数が多すぎる。さらにスキンヘッドに黒いヘアバンドをした男性も多く見かける。しかも頭頂部が赤くて血が混じっている...。この黒いヘアバンドは最近の流行りのスタイルかな? などとも思っていたのですが、やがてそれが医療植毛をした人の典型的な手術後の姿であることが分かりました。だからか! イスタンブールでは本当によく見かける光景です。
トルコがメディカルツーリズムの行き先に選ばれる理由
トルコがメディカルツーリズムの行き先に選ばれるのには、理由が幾つかあります。この記事では医療植毛にフォーカスしていますが、以下の理由は他の医療分野にも当てはまります。
1. 料金が安い
トルコは物価が非常に安い国。ですから連動して、医療費も欧米諸国と比べるとかなり安い。植毛を例にとってみますと、アメリカでは 100 万から 200 万するところが 2 分の 1 から 4 分の 1 の値段で済ませることができます。もちろん手術の部位・種類やクリニックの料金体系にもよりますが、いずれにしても欧米での施術より圧倒的に安いことは確か。
2. 順番待ちの必要がない
ドイツでの自分自身の経験やフランス人の友達に聞くところによると、欧米ではまず予約を取るのが難関。下手すれば 5 か月先の診療などもざらにあるようです。トルコでは、思い立った日が吉日。予約は簡単に取れ、あっという間に施術となります。予約後は、ヨーロッパ圏 (英国、ドイツ、イタリアなど) からのクライアントであればトルコでの植毛を最短の 2 泊 3 日で済ませて帰ることができます。
3. メディカルツーリズムのパッケージは All inclusive
各クリニックが提供しているのは、単なる医療植毛だけではなく All inclusive(経費がすべて含まれている) のプランです。空港でのお出迎えから始まり、ホテルとクリニック間の送迎、最後は空港までの送迎など一連のトランスポーテーションに加えて、ホテルの宿泊費と食事、クリニックでの通訳...などなどすべてが含まれた至れり尽くせりのプランです。
4. 医療のクオリティが非常に高い
これは非常に大切なポイントです。トルコには、アメリカやヨーロッパで学んだ腕の確かな医者が多い。こうした医師たちに師事した地元の医師たちもスキルを磨いています。さらに設備もかなりの程度最新です。
トルコには、JCI 認定の医療機関が約 50 あります(https://www.deik.org.tr/uploads/ifc-focus.pdf)。JCI とは「Joint Commission International」の略で、世界の中で最も厳しい基準を持つ国際的医療施設評価機関のことです(https://j-imc.co.jp/joint-commission-international)。トルコの JCI 認定の医療機関の数は、日本より多いのです。
私がメインで住むガジアンテプのようなイスタンブールから遠く離れたいわゆる地方都市でも、クリニックや病院は非常にきれいで設備は最新です。なお地方都市ではさすがに植毛手術はなく、植毛希望のトルコ人は植毛メッカのイスタンブールに赴きます。メディカルツーリズムはトルコ政府がかなり力を入れている部分で、インフラ整備にかなりの資金と労力がつぎ込まれています。
2023 年の終わりまでには、メディカルツーリズムによる収益を現在の 10 億円から 100 億円にあげるのがトルコの目標です(こちらの記事を参照)。
トルコでの医療植毛の様子については、患者さんがアップロードしていたりクリニックがビデオを公開していたりしますので、いろいろな情報を事前に得ることができます。今回ここでご紹介するビデオは、植毛手術の様子と種類について解説したものです。すべて英語になっていますが、何となく様子をつかんでいただけるかと思います。少し痛々しい画面もあるので、勇気がある方だけご覧になるようお勧めいたします。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com