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中東から贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ/エジプト

「石を投げるより僕は動画を撮る」 - パレスチナ人とユダヤ人の暴力の応酬に思うこと

パレスチナ問題の根底にあるものとは?

パレスチナ問題は、ユダヤ人側とパレスチナ人側の双方にそれぞれの言い分があります。でもその言い分の根底にあるのは、過激な宗教的思想だと思います。

ユダヤ人は、約2000年前までユダヤ人が一国民としてパレスチナに住んでいたことを理由に、この土地はユダヤ人のものだと主張します。そしてユダヤ主義の過激派は、自分たちこそが神に選ばれた特別な民族だという「選民思想」に基づいて行動します。つまりイスラエルはユダヤ人だけのための国家であり、非ユダヤ人にはユダヤ人と同等の権利を与える必要はないというわけです。ユダヤ教徒は若いころからこのように教えられます。

The only good arab is a dead Arab.

良いアラブは死んだアラブだけ

一方のイスラム教は、イスラム教徒以外は地獄に行くと教えています。そしてユダヤ人を殺したり殉教者になったりすれば、条件なしで天国に行けると信じて疑いません。こうした思想は、自爆テロにつながります。抑圧されたガザでは特に、失うものが何もないので捨て身でイスラエル軍に立ち向かいます。死んだらヒーロー扱いされます。ガザのほとんどの若者たちの将来といえば、イスラエル軍の攻撃を受けて体に障害が残るか死ぬかの二者択一です。

中東の歴史は憎しみの連鎖

問題の根本原因は、人々の心にある憎しみだと思います。心に憎しみがあると、必ずいつか表面化します。中東の歴史は憎しみの繰り返し。この狭い土地で何世紀にもわたって、キリスト教徒はイスラム教徒に敵対し、イスラム教徒はキリスト教徒に敵対し、イスラム教徒はユダヤ教徒に敵対し、ユダヤ教徒はイスラム教徒に敵対してきました。憎しみは世代から世代へと受け継がれ、そして年々増幅していきます。

中東に宗教がなかったら?

中東に宗教がなかったら...と考えるのはナンセンスかもしれません。宗教があったから中東が出来上がりました。宗教がなかったら今の中東はなかったでしょう。では言い方を変えます。中東に過激な宗教的思想がなかったら? 1948年にアラブとユダヤ人の戦争が起きる代わりにこんな会話が繰り広げられたかもしれません。

ユダヤ人:ナチのホロコーストでは本当にひどい目に遭った。先祖が住んでいた地を安住の地として定住したい。お邪魔します。

アラブ(パレスチナ人):それはそれは本当に大変でしたね。お気持ち分かります。ただし私たちもこの土地に先祖代々住んできた。なので、それぞれがお互いをリスペクトし合って住んでいきましょう。

ユダヤ人:もちろん、そうさせてもらいます。できるところは協力していきましょう。

これは単なる私の空想です。もちろん宗教だけが絡んでいるのではありません。そもそもパレスチナ問題の事の発端は、イギリスの「三枚舌外交」だと言われています。ユダヤ人にもアラブにもいい顔をしたこの外交の結果が中東の混乱の下地となりました。ですから、上のシナリオ通りだったとしても、ユダヤ系住民とアラブとの間でそれなりのいざこざは生じたはず。でも物事をより複雑にして修復できないところにまで発展させたのは、まぎれもなく過激な宗教的思想。どちらも宗教的なプライドでおごり高ぶり、相手を見下し、断罪する。政治家はそれをうまく利用して人々をさらに敵対させ、自分の政権維持の基盤とする。

人々の心に憎しみを植えつけるのが宗教であるなら、百害あって一利なしです。語弊があってはいけませんので付け加えますと、宗教すべてが悪いといっているわけではありません。私は聖書の愛読者です。宗教というのは、人々の生活を向上させ、憎しみなどの醜い感情を取り除く助けになるものであるべきだと思います。過激的な思想を双方が主張する限り、神がどちらの側にいるとも思えません。こうした過激な思想はもはや「宗教」ではなく、「政党」ですよね。

パレスチナ問題の解決はあるか?

今回の暴動・衝突は 2014 年の時のように 50 日間続くかもしれませんし、もっと長く続くあるいはもっと短くて終わるかもしれません。いずれにしてもいつかは収まるでしょう。イスラエル軍はガザのハマスの戦闘力を徹底的に粉砕することで、しばらく (数年間) はハマスを無活動化させることを目指しています。最終的には、どこかの国が仲介を買って出てお互いをなだめ、なんとかその場しのぎで収めることになると思います。これはいつものこと。でも憎しみはなくなっていません。さらに増幅しています。

ですから、憎しみが次に爆発するのは時間の問題。今回収まってもまた数か月後、あるいは数年後に再燃することでしょう。

ただし今回のこの混とんとした状況の中でも、パレスチナ系イスラエル人とユダヤ系住民が平和に共存しているエリアも沢山あります。こうしたエリアでは、共存と和平を訴える平和的なデモが行われています。ですから問題はやはり過激的な宗教的思想と言わざるを得ません。こうした共存を訴える草の根的な運動が実を結ぶ日が来るかもしれません。

また、この記事で紹介したパレスチナ人の少年のように「石を投げても問題は解決しない。僕は動画を撮る」というような理性的な若者が増えることで、暴力の応酬にある程度の歯止めをかけることができるかもしれません。

いずれにしても、中東の今後の行方を見守りたいと思います。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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