イタリアの緑のこころ
2020年夏 イタリア観光業とイタリア人の旅行動向
外国人観光客の大幅減少で観光に大きな打撃
この夏イタリアでは、イタリア人の多くが国内を旅行したものの、外国人観光客が大幅に減少し、8月には海や山、自然に囲まれた小村、キャンプ場などでは大勢の客が見込めたけれども、芸術の町やホテルには厳しい結果となった。Il Sole 24 Ore紙やANSAの記事には、新型コロナウイルス感染の影響が色濃く反映されたこうした状況が書かれています。
確かに夏に入ってから、テレビニュースでは連日、アドリア海やティレニア海の砂浜や町がにぎわう様子が放映されていました。今年はわたしたちが、旅行で海に行かずじまいであるのも、あまりの混雑ぶりを見て感染を恐れると同時に、行こうと考えていた島は観光客が多く、6月でさえ宿を見つけるのが難しいほどたったためです。また、アドリア海岸に暮らす友人たちは、週末は旅行客が大挙して押し寄せるからと、ほぼ毎週内陸部の山に出向いて登っていました。
8月26日付のANSA記事(リンクはこちら)には、今年8月は外国人旅行者数が70%減少し、旅行消費額も半額の20億ユーロとなったと推定されると書かれています。また、Coldirett/Ixe'調査の結果を報告する8月26日付のIl Sole 24 Ore紙の記事(リンクはこちら)によると、この夏はレストランなどにおける食事の消費額が、30%減少し、外国人観光客の大幅な減少の影響がとりわけ深刻なのは、歴史・芸術の町で、レストランやバールに客がほとんど見られず、開業さえしていない店も多いとのことです。
わたしたちがよく行くトラジメーノ湖畔のレストランでは、例年夏は6月頃から外国人旅行客が多くなり、イタリア人である夫が「今日はイタリア人客はぼくだけみたいだね。」と言うことさえあるほどです。ところが、いつもなら北欧からの外国人観光客であふれる店は、今年は7月までは大半がイタリア人客で、店の人は「外国人客は少ないけれども、国内を旅行するイタリア人が多いおかげで、予約の電話を断らなければいけないほどなんですよ。」と、ほっとしながら言っていました。
先述の調査によると、この夏はイタリア国内を旅行先として選んだイタリア人が93%で、昨年に比べて増加しています。けれども、イタリア人の旅行消費額も今年は25%減少し、一人あたり平均588ユーロとなっているために、外国人観光客の減少で打撃を受けた旅行業界の損失を埋めることはとてもできないとのことです。
イタリア人 93%が国内旅行、人気は海、山、地方の小村
やはり先述の調査を引用する8月28日付のItalia a Tavolaの記事(リンクはこちら)によると、イタリア人の4人に一人が、旅行先として自分が暮らす州を選び、海岸に次いで、山や地方の小村も観光客でにぎわう一方、旅行先として町を選ぶ旅行者が大幅に減少したとのことです。
今年の夏はイタリア中部の山に出かけると、どの山もかつて見たことがないほど、大勢の旅行客でにぎわっているので驚きました。そうした山のレストランやバールの人と話すと、あまりの繁盛ぶりに、とまどいながらもほっとしているようです。登山客だけではなく、野原でピクニックをする家族連れや、山道の路傍や森の中に椅子を置いて座り、涼を取っている高齢者の方も、あちこちで見かけました。
ウンブリア州カステッルッチョ・ディ・ノルチャの高原は、毎年6月末から7月半ば頃に、一面を彩る野の花が美しいことで知られ、従来でもこの時期は、週末に大勢の観光客が訪れていたのですが、今年の夏は、高原まで登っていく道路でさえ交通渋滞が起こるほど来訪者が多く、環境汚染さえ問題となるほどでした。また、7月のモリーゼ旅行では、2泊した村、ヴェナーフロの宿の主人から、この夏は観光地として村が再発見されて、かつてないほどの旅行客が訪問していると聞きました。わたしたち自身、ヴェナーフロを訪ねたのは初めてでした。
モリーゼ州は感染者が少ないことと、風景が美しく、興味深い観光地が多いのに旅行者が少ないことが、物価が安いことと共に、今回わたしたちがモリーゼを再訪することにした理由だったのですが、先の調査結果を見ると、わたしたちと同じように考えて、自然に囲まれた地域や小村を訪ねたイタリア人旅行者が大勢いたようです。
イタリア中部で唯一海のない州でありながら、緑の多いウンブリア州では、8月に入ってから幸い、山も町も観光客でにぎわっていると、地方ニュースで報道がありました。自然が豊かであり、他州の観光地ほどの混雑は予想されず、また、感染者数が少なかったおかげでしょう。
様々なニュースによると、旅行者の数が減り、予算も少なくて済む9月に入ってからの旅行を考えているイタリア人も多く、南部の海が人気があるとのことです。イタリアでは全国的に、8月最後の週末の雨を機に、今後気温が少しずつ下がっていくようですが、南イタリアならまだ海にも行けるだろうかと、わたしたちも少し考え始めています。
著者プロフィール
- 石井直子
イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。
ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia
Twitter:@naoko_perugia