Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
東京五輪にインスパイア?動物や環境のためにも、年越し花火の廃止を前向きに検討
2021年もあとわずか。大晦日の晩には、世界各地の主要都市で盛大な年越し花火が打ち上げられるのが恒例だが、昨年は新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、キャンセルとなった都市も多かった。
今年は、数ヶ月前までは、「開催する」という都市がほとんどだったが、ここへきて欧州を中心に感染が急増していることから、パリでは早々に、今年もキャンセルを決めたという。(参照)
昨年も例年通り、年越し花火を開催したシドニーは、ここへきて感染者数が急増していることから、医療専門家らから懸念の声が上がっているものの、今年も予定通り開催の意向だ。
大晦日の年越しカウントダウン花火は、どの国にとっても、1年に1度の大きな国民的行事には間違いない。
とはいえ、パンデミックの今の時期、大勢の人が一堂に介して鑑賞する大規模な花火大会は、リスクを伴う...という一時的なことだけでなく、野生動物をはじめとする周囲の環境へのさまざまな影響から、中止を求める声が年々大きくなっている。
我が家のエリアでも、花火が打ちあがると、近所の犬が吠えまくることも少なくないし、インコやオウムなどの野鳥が、警戒の鳴き声を発しながら、大群で飛び回り始めることも多い。夜間にこうした鳥の異常行動が見られるのは、やはり花火の爆音に驚いているからだろう。
毎年、大晦日にシドニー湾で行われる花火は、世界でも有数の豪華絢爛な花火大会として知られ、私も来豪した頃はその壮麗さを賞賛していたが、上記のようなことを見聞きする度に、見物したいという気持ちが徐々に失せ、もう何年も足が遠のいている。
今年もまだパンデミックの最中ということもあって、年末のイベント情報はまったく追っていなかったのだが、我が地区の市長が、「大晦日の花火の段階的廃止を前向きに検討していくべきだ」と州の地方議会で提案したと聞き、「さすが!」と思わず、膝を打った。
花火ではなく、ドローンやレーザー光線による演出を模索
大晦日の花火の段階的廃止を検討するよう、各地区の首長に呼びかけたのは、シドニー北部ノーザンビーチーズの市長、マイケル・リーガン氏。
リーガン市長は、10月半ばに開催された議会で、
「(花火に代わって)ドローンやレーザー光線によるディスプレイを使用していくことは、野生動物や環境、そして、これまでの花火イベントでトラウマになっているペットにとっても、良い結果をもたらす可能性がある」
と述べ、大晦日のような大きなイベントにおけるドローンやレーザー光線使用の可能性ついて調査する動議を支持するよう、呼びかけたそうだ。
花火に関する近年の調査によると、野生動物や鳥が、打ち上げ花火の破裂音に驚いて方向感覚を失い、壁や鉄塔などに衝突して死亡するケースも多いという。また、犬や猫などのペットとして人間と暮らす動物たちもストレスを感じ、怯え、パニックで迷子や死亡事故に繋がってしまうことがあると警鐘を鳴らす声もある。(参照)
昨年も、英国ブリストルの動物園のシマウマの赤ちゃんが、地元のお祭りで打ち上げられた花火の音に驚いて走り出し、構造物に衝突して死亡するという痛ましい事故が起きた。(参照)
花火の問題点は、『音』だけではなく、危険な汚染物質を大気中に放出することから、人体や動物、環境に有害であると指摘されているのも事実だ。(参照)
東京五輪開会式のドローン・ディスプレイにインスパイア?
リーガン市長は、この提案の中で、英国、シンガポール、インド、中国などでは、既に花火を減らし、ドローンとレーザー光線の使用を増やしていることに触れ、東京五輪の開会式で披露されたドローンを使ったディスプレイは、観客に大きな感銘を与えたと力説。これまで、ドローンやレーザーは、花火より高価な割に見劣りするという理由で、使用を拒否してきた議会の見解を一蹴した。
シドニー湾の年越し花火を仕切るシドニーのムーア市長は、こうした提案を受け、シドニー湾の花火が年越しイベントとして重要な位置づけであることに変わりはないが、ドローンやレーザー等による光のショーは、検討の余地があると述べたという。
現時点では、あくまでも可能性を探る段階であり、今年の大晦日には間に合わないが、こうした提案が議会で議論されるのは、大きな進歩といってもいいのではないだろうか。
リーガン市長は言う。
「大規模な花火の打ち上げをやめることで、私たちの周りのすべてがうまくいくなら、こんなに素晴らしいことはありません」
今後、あの盛大なシドニー湾の花火がどうなっていくのか、とても気になるが、少なくとも、ここノーザンビーチーズ地区では、リーガン市長が、「2022年には実現可能」としていることから、来年には花火に代わる(もしくは花火を減らした)光のショーを見ることができそうだ。
人間が楽しむだけでなく、同じ土地をシェアしている生き物たちが皆、ハッピーな年が迎えられますように!〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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