Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
アシュリー・バーティ ~平等と笑顔のために闘うテニス界の女王
豪クイーンズランド州で生まれ育った快活な少女は、初めてラケットを握った19年後、世界の頂点に立った。
テニスという競技に挫折し、一時はラケットを捨て、別の道を歩み始めたこともあった。
迷いながらも、社会の圧力をはねのけ、強くなって戻って来たテニス界の不屈の女王――
アシュリー・バーティ
地元オーストラリアでの愛称は「Ash(アッシュ)」。先住民の血を引くことから全豪先住民テニス大使を務め、最新の世界ランキングでもナンバー1をキープし続けている。
全豪オープン2021出場で強豪たちがライバル視
2月8日に開幕した全豪オープン2021の前哨戦と言われるヤラ・バレー・クラシックで、スペインのガルビネ・ムグルザを破り、優勝。女王の貫禄を見せた。
Say @ashbarty!
-- #AusOpen (@AustralianOpen) February 7, 2021
Who out there knows which animal is featured in the Yarra Valley Classic trophy? pic.twitter.com/IF4280awuW
一昨年(2019年)の全豪オープンで優勝し、王者返り咲きを狙う大坂なおみは、「(アッシュとの対戦は)前日にストレスを感じるので、できれば当たりたくない。でも、(試合を)やったら楽しいだろうね」と漏らしたという。(参照)
昨年は新型コロナウイルスの影響で、2月以来試合に出場しておらず、全仏及び全米オープンも欠場していたため、今回の全豪オープンは、彼女にとって実に11ヶ月ぶり。前哨戦での優勝も相まって、豪国内では注目度も期待度も最高潮だ。
燃え尽き症候群からテニスに挫折、クリケット選手に
4歳からテニスを始め、14歳でプロデビュー。15歳の時にウィンブルドン選手権ジュニア女子シングルスで優勝し、注目を浴びた。
ところが、18歳になった2014年、突然、テニス界を去る決断を下す。(参照)
ダブルスではグランドスラムで3回の準優勝を飾るなど、ジュニア・ランキングで世界2位となる活躍をみせていたが、シングルスではなかなか成績が残せなかった。
「幼い頃から海外転戦であちこちへ行き、忙しなく時間が過ぎてしまった。普通の10代の女の子としての生活や経験をしたい...」
そういってテニスのラケットを仕舞った彼女が手にしたのは・・・なんと、クリケットのバット。
地元のクリケット・チームでプレーし、仲間との時間を大切にした。2015年12月には、クリケット・プロリーグのブリスベン・ヒートと契約。デビュー戦でチーム2番目に最多得点を記録して活躍し、レギュラーの座についた。
そんな才能あふれる彼女がテニスと距離を置いた理由は、誰もが経験する思春期の不安定な心と社会からのプレッシャーだったという。これについては後に、ジュニア時代から注目されてきた重圧感と同世代女子と自らの生活とのギャップからうつ病になり、投薬治療をしていたと明かした。(参照)
先住民としてのプライドを胸に
父親がオーストラリア先住民ンガリゴ族の出身でもあるアッシュ。有名になり、Wikipediaのプロフィールに先住民の子孫であることが書かれるようになると、心ない者が度々該当部分を削除しようとするなど、人種差別的な行為が続いたこともあったという。
しかし、そうした卑劣な行為にも動じず、自らのバックグランドに誇りを持ち、大切な遺産として受け継いでいくと強い決意を表明。
テニスに挫折した時も、心の支えとなる良き指導者として尊敬し、師と仰ぐオーストラリア先住民出身初のテニス界レジェンド、イボンヌ・グーラゴンにアドバイスを求め、イボンヌからもらった「いい決断ね。釣りにでも行くといいわ」というメッセージに救われたと話し、日頃から積極的に先住民コミュニティに関わっている。(参照)
I'm very proud of my Indigenous heritage and to be named as a National Indigenous Tennis Ambassador. Giving back to my community is very important to me and I hope to inspire many more Indigenous kids to get active and enjoy their tennis pic.twitter.com/NBFFhMcmZD
-- Ash Barty (@ashbarty) April 15, 2018
2年間のブランクを経て、テニス界へ復帰。世界一へ
クリケットではチーム・プレーに学ぶことが多かったというが、やはりテニスへの情熱が忘れられず、2016年、再びテニス界へ。
戻ったばかりの時は、世界ランク623位。しかし、2年後の2018年、全米オープンのダブルスで優勝。2019年には全仏オープンのシングルスで初優勝し、初出場のWTAファイナルズでも優勝。
わずか3年で世界ランク1位まで登りつめた。
Sister https://t.co/VvzYHHfPuz
-- Ash Barty (@ashbarty) June 9, 2019
先住民を代表するアスリートで金メダリストのキャシー・フリーマンがツイートした全仏オープン優勝へのお祝いメッセージへのリプライ。赤、黄、黒の3色のハートは、先住民国旗のカラーを表現。
名実共に世界一となったアッシュは、自らも10代の時の経験した社会の様々なプレッシャーに屈することなく、スポーツを通して女性が生き生きと生きられる世の中になって欲しいと、オーストラリア・テニス協会が展開する女性のスポーツ参加を応援する『#PlayForYouキャンペーン』に率先して携わっている。(参照)
地元を愛し、皆で支え合う社会へ
コーヒーとベジマイトが大好きで、地元クイーンズランドそしてオーストラリアを愛してやまない24歳は、昨年のオーストラリア版ウィメンズヘルス誌のインタビューでこう語っている。
「私達オーストラリア人(オーストラリアのスポーツ界)は皆、互いをとても支え合っている。支え合い、共に祝う。これぞスポーツの素晴らしさです」(参照)
こうした彼女の姿勢から見えてくるメッセージは、『性差や人種的な差別なく、お互い支え合って楽しむスポーツで世の中を笑顔に!』
数々の逆境を乗り越え、より強くなって戻って来たアシュリー・バーティから目が離せない!
Today we celebrate 50 years of the #Original9. Thank you for your love, ambition, courage and fight for equality
-- Ash Barty (@ashbarty) September 23, 2020
I'm so fortunate be to Australian standing proudly behind two very special members of the Original 9, Judy Dalton and Kerry Melville Reid pic.twitter.com/OxWksoxIcC
《敬称略》
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/