ダイバーシティ先進国ベルギーから観る欧州 LGBTQI 事情
ドイツで同性愛者の首相誕生なるか?イェンス・シュパーン保健相 @「ポスト・メルケル」レース
シュパーン首相の実現性
これまでのことを踏まえておさらいすると、ポスト・メルケルの首相候補の最有力で本命はバイエルン州首相マルクス・ゼーダーCSU党首。対抗馬はノルトライン=ヴェストファーレン州首相のラシェット新CDU党首。そして、大穴がイェンス・シュパーン保健相(新CDU副党首)。
かつては揃って反メルケルで足並みを揃え、保守派の論陣を張ったメルツが2回連続で党首選で敗れたことで、選択肢からは消えつつあり、CDU保守派の支持が他党CSUのゼーダーではなくシュパーンに流れると、人気のないラシェットが今後もリーダーシップを発揮出来なかった場合には、ラシェットに替わりシュパーンが浮上してくる。ちなみにCDU党首選前日の1月15日に発表されたZDFの世論調査から「次期首相に適しているか?」という問いについては、下記のような結果が示されている。
マルクス・ゼーダー (賛成 54%、反対 38%)バイエルン州首相、CSU党首
オラフ・ショルツ (賛成 45%、反対 45%)副首相、兼財務相 SPD
イェンス・シュパーン(賛成 32%、反対 59%)保健相、CDU副党首
ノルベルト・レトゲン(賛成 29%、反対 49%)元環境相、CDU
フリードリヒ・メルツ(賛成 29%、反対 49%)元下院院内総務、CDU
ロベルト・ハーベック(賛成 29%、反対 49%)同盟90/緑の党 党首(共同)
アルミン・ラシェット(賛成 29%、反対 49%)ノルトライン=ヴェストファーレン州首相、CDU党首
アンナレーナ・ベアボック(賛成 29%、反対 49%)同盟90/緑の党 党首(共同)
賛成が高く、反対が低いゼーダーが優位なのが判る。シュパーンは支持率では3位だが反対も60%近くあり、これはどの候補よりも高い。アメリカ大統領選の民主党の予備選でピート・ブティジェッジが黒人有権者に支持が全く広がらずに早い段階で撤退を余儀なくされたが、似たような弱点も浮き彫りになっている(ブティジェッジにはバイデン政権で運輸長官として実績を上げ、次回の大統領選に向けて頑張って欲しい)。
また、ヨーロッパ大陸の各国政府は連立政権が主流となっている。CDU/CSU同盟が第1党の地位から滑り落ちることはなさそうだが、近年の状況から単独政権を実現出来る見通しも低い。そうなると、やはり9月の選挙後も連立政権の可能性が高くなる。① 現在の連立のパートナー左派SPDとの関係を維持するのか、それとも②人気上昇中で第2党に踊り出そうな勢いの環境政党・同盟90/緑の党と新たに手を結ぶのか(現在このパターンが一番あり得る連立と見られている)、はたまた③コロナ後を見据え、経済回復を重視して新自由主義のFDPと中道右派連合を結成するか、いずれの選択肢も考えられる。
CDU/CSU同盟としては、この連立相手としてどの政党と組むのか、そして、これらさまざまな連立相手の指導者たちと上手く交渉を進められるか、なども見据えながら、首相候補を選ばなければならない。
以上、様々な角度からシュパーン保健相を含めたポスト・メルケルの首相候補を見てきたが、全てはコロナの感染拡大を誰がどう封じ込め、成果を出せるかに掛かっている。コロナ対策の焦点はワクチン接種にも移行しており、シュパーンには保健相という立場でどれだけ有効な手段を講じることが出来るか。担当大臣として彼の手腕が問われるところだ。
既にヨーロッパでは5ヶ国で同性愛者の国家リーダーが誕生しているが、もしイェンス・シュパーンがコロナ対策に成功し、首相の座を射止めたならば、彼ら・彼女らに続き、初めて主要国での同性愛者によるトップリーダーが生まれることになる。
これまでの顔ぶれを紹介しておくと、2009年ヨハンナ・シグルザルドッティル元首相(アイスランド・レズビアン)、2011年エリオ・ディルポ元首相(ベルギー・ゲイ)、2013年グザヴィエ・ベッテル首相(ルクセンブルク・ゲイ)、2017年レオ・バラッカー元首相(現副首相、22年首相に復帰予定、アイルランド・ゲイ)、アナ・ブルナビッチ首相(セルビア・レズビアン)の5人。この内、2人の現職については、既に記事にしているので、こちらも併せてお読みいただきたい。『欧州では既に同性愛者の首脳が誕生している【前編】』『欧州では既に同性愛者の首脳が誕生している【中編】』
さてさて、ここまで書いたところで、ドイツ発の最新ビッグニュースが!
昨年10月にシュパーン氏はコロナ検査で陽性反応が出ていたのだが、その前日にプライベートで夕食会に参加し、12名の起業家と同席していたとの報道が。この時点でのドイツのルールでは複数での会食は禁止されてはいなかったものの、コロナ対策担当大臣として、国民には自粛を促していた立場にいたシュパーン保健相。流石にこのタイミングでのスキャンダル報道はダメージが大きい。批判の広がり方によっては、大臣辞任の可能性も。先の党首選でラシェット氏支持に回ったことを踏まえ、次の次を目指すべく精進したほうが良さそうだ。年齢もまだ40歳と若く、党内若手の支持も厚いとされているので、将来の首相候補の芽はまだまだあるに違いない。
著者プロフィール
- ひきりん
ブリュッセル在住ライター。1997年ドイツに渡り海外生活スタート、女性との同棲生活中にゲイであることを自覚、カミングアウトの末に3年間の関係にピリオドを打つ。一旦帰国するも10ヶ月足らずでベルギーへ。2011年に現在の相方と出逢い、15年シビル・ユニオンを経て、18年に同性婚し夫夫(ふうふ)生活を営み中。
ブログ:ヨーロッパ発 日欧ミドルGAYカップルのツレ連れ日記
Twitter:@hiquirin