コラム

今年のネビュラ賞受賞作は、現在のパンデミックと隔離生活を予言したかのような近未来SF

2020年06月18日(木)16時15分

現実にパンデミックで人々が隔離された生活をするようになり、Amazonはますます人々の日常生活に入り込んでいる。何をどこでどう購入するのか、利用者のデータをすべて持っている。その恐ろしさを感じている人は多いと思う。この小説では、Amazonを連想させるような SuperWallyや、ミュージシャンを道具としてしか扱わないSHLが、隔離政策を利用して人々を完全に操ろうとしている。これはSFとはいえ、現実的な恐怖だ。

現在アメリカで起こっている「自宅待機」や「マスク使用」への反発、抗議デモでの若者の団結などを見ると、このSFが語る「人々が実際につながることへの強い欲求」には説得力がある。

世界は悪い方向に向かっているようにも見える。だが、このSFの登場人物がほとんど女性で、恋愛関係もすべて同性愛ばかりであり、それがごく自然に描かれていることに社会が実際には進歩していることを実感する。筆者が子どもの頃に愛読したSFは、今振り返ると主要人物はほとんど男性であり、恋愛関係もヘテロセクシャルの男性の視点ばかりだったから。

こういったことを考えると、未来は決して暗くはないと思うのだ。また、未来を作るのは私たちなのだから、自分たちでなんとかしなければならない。それも感じさせてくれるSFだ。


 『A Song for a New Day
 Sarah Pinsker

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プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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