コラム

2020米大統領選、民主党有力候補カマラ・ハリスの優等生すぎる人物像

2019年02月28日(木)15時00分

父親がジャマイカ出身で母親がインド出身という移民2世であり、肌の色が褐色の有色人種(アメリカでは黒人とみなされる)で、しかも女性という3重のマイノリティーだ。これまでのアメリカでは「当選する見込みゼロ」と最初から考慮にも入れられなかっただろう。

だが、トランプ大統領の誕生で多くの状況が変わった。アメリカの大統領がみずから女性、移民、人種マイノリティーに対する差別的な言動を繰り返し、明らかな白人至上主義者すら擁護し、冷戦時代からアメリカの最大の敵でありライバルだったロシアと深く関わっている可能性があるのだ。この異様な事態のおかげで、アメリカの政治の常識がすべて吹っ飛んでしまったのだ。

現時点では2016年の予備選でヒラリー・クリントンと苦い戦いを繰り広げたバーニー・サンダースが堂々たるフロントランナーだが、それは2016年のヒラリーのように「知名度があり、勝てる候補」という期待が大きいからだ。陰では多くの人が2008年のバラク・オバマのような「希望」を与える新しいスターを求めており、高齢のバーニー・サンダースや古株のエリザベス・ウォーレンよりも、共和党が強いテキサス州の上院議員選で惜しくも僅差で破れたベト・オルークや2017年に上院議員になったばかりのカマラ・ハリスに期待を寄せる人がいる。

人々が最初にカマラ・ハリスに注目したのは、2016年の大統領選へのロシアの介入とトランプ候補や陣営のロシアとの関わりを疑う「ロシア疑惑」に関する2017年の上院司法委員会でのことだった。トランプ候補を早くから支持し、司法長官に任命されたジェフ・セッションズに対する鋭く揺るがないハリスの勇姿が多くの視聴者を魅了し、ソーシャルメディアでも英雄として広まった。

また、2018年には、トランプ大統領が連邦最高判事に指名したブレット・カバノーに性暴力を受けたと訴える複数の女性が現れ、そのうちのひとりが公聴会で証言する大きな出来事があった。注目を集めたカバノー自身の公聴会の証言で静かながらも厳しく追及するハリスはさらに多くのファンを集めた。

シングルマザーに育てられたハリス

アメリカの憲法では35歳以上でないと大統領にはなれないと定められているので、54歳のハリスは現在の候補者の中では若手のほうだ。2016年にバーニー・サンダースを支援した若者たちの多くがすでに別の候補に乗り換えているが、ハリスはそのうちの一人である。

ハリスは1月21日の「キング牧師記念日」に立候補を発表したのだが、本書『The Truth We Hold』の刊行がその寸前だったのは偶然ではない。この本は、まだ全米で知名度が高くないハリスが自分を紹介するための本なのだ(児童書版も同じ日に出版されて、アマゾンのベストセラーリストに入っている)。

ハリスの両親はどちらも移民だが、ジャマイカ出身の父親はスタンフォード大学の経済学の教授であり、インド出身の母親(故人)は乳がん専門の研究者という専門職だ。幼いときに両親が離婚してシングルマザーの母に育てられたハリスと妹は、どちらも高等教育を受けて弁護士の資格を取っており、この回想録からは、トランプ大統領が支持者たちに対してよく語る(フィクションともいえる)ステレオタイプとはかけ離れた、移民、有色人種、シングルマザーの実像が浮かび上がる。

弁護士として高収入を得るためには、有名な弁護士事務所の企業弁護士になったほうがいい。だが、ハリスは収入が限られている検察を選んだ。そして、2004年に40歳で地方検事になったハリスは、47歳のときに選挙で共和党の対立候補を僅差で破り、女性としても、黒人としても、インド系としても初めてのカリフォルニア州司法長官に就任した。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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