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完璧ではないフェミニストたちの葛藤
さらりと描かれているが重要なのが、フェイスが人生を捧げてきた第2世代のフェミニズムへの現代の若いフェミニストからの批判だ。グロリア・ステイネムの世代のフェミニストが戦って人工中絶を合法にしたのに、現代の若いフェミニストはそれらの達成を当然の権利として受け取り、その上で「中流階級の白人女性のフェミニズム」と批判する。それに対する苛立ちは、私の世代以上のフェミニストの女性が共有するものだ。
急進派のフェミニストからの批判は、この小説『The Female Persuasion』にも向けられている。彼女たちは、もっと直接的なフェミニズム小説の『The Power』に共感を覚えるようだ。
しかし、社会を変えようとするときには、これらのどちらか一方ではなく、「どちらも」が活動をするべきではないだろうか。しかし、現実にはなかなかそうはいかず、急進派が「中流階級の白人女性のフェミニズム」を罵倒してパワーを削ってしまうことがある。
2016年の大統領選挙の現場で私が見たのは、若い女性の多くがヒラリー批判のリベラル急進派につくか、無関心かのどちらかを選んだという現実だ。ヒラリー支持の若い女性(特に大学生)はピアプレッシャー(仲間からの圧力)で黙り込むしかなかった。
その結果がトランプ勝利だ。だが私が知る限り、あれほど声高だったリベラル急進派の誰も反省はしていない。
読んでいるときに思ったのだが、フェイスの欠陥は、ヒラリーの欠陥を連想させる。「重要なことを成し遂げるためには、金や権力への妥協も必要」と受け入れている部分だ。
ローサイの資金援助をしていた企業が女性救済事業での失敗を隠蔽していたことが判明したとき、フェイスは「大きな善を成し遂げるためには、小さな犠牲は必要」という態度を取る。そんなフェイスに対し、グリーアはフェイスへの忠誠心と自分の信念の間で悩む。
このときのグリーアの選択がその後の彼女の人生を変えることになるのだが、読者の私たちならどうしただろうか?
「重要なことを成し遂げる」ためには小さな嘘や犠牲を許すべきなのか、不可能に近くても「純粋である」ことを重視してすべてを犠牲にするべきなのか。そういった葛藤は、なにもフェミニズムに限ったことではない。多くの人が人生のいろいろな場面で直面する葛藤だ。
『The Female Persuasion』のテーマはフェミニズムだが、多くの登場人物の生き様を通して近代アメリカ社会を描いているという点で、現代アメリカを代表する文芸小説作家とみなされているジョナサン・フランゼンの作品と似ている。ゆえに、女性小説ではなく、アメリカ社会の歴史的な背景を含む人間観察小説ととらえたほうが、より楽しめるだろう。
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