コラム

集団レイプで受けた心の傷から肥満に苦しむ女性の回想録

2017年12月13日(水)18時00分

ゲイの場合は肥満だったが、拒食症や自傷行為に傾倒する者もいる。また、精神的な苦痛を和らげるためにドラッグやアルコールに頼り、依存症になる者も......。ゲイにとってカロリーが高い食品を大量に食べ続けるのは、依存症の一部だったのだろう。

若年の性暴力の被害者がこれまでにも語ってきたことだが、残酷な体験のおかげで、健全な性行動や人間関係を持てなくなってしまう。

ゲイが、20~30代に性的な関係を持ったのは、無視や軽蔑、暴力をふるうような相手ばかりだった。そういう相手ばかりを引き寄せた。

「(それらの虐待)すべてを受け入れたのは、傷ものにされ、その後でも自分の体を破壊し続けてきた自分には、それよりましな扱いを受ける価値がないと知っていたから」
(I was a lightning rod for indifference, disdain, and outright aggression, and I tolerated all this because I knew I didn't deserve any better, not after how I had been ruined and not after how I continued to ruin my body.)

最も悲しいのは、30年経った今でも、ゲイが加害者に自分を傷付けるパワーを与え続けていることだ。

ゲイは、何年も経ってから加害者をネットで探し出し、無言電話をかけた。そして、加害者についてあれこれと考える。

「彼が始めたことを私が何年も止められないでいたのを、知っているのだろうか? セックスしているとき、彼のことを考えなければ、何も感じないということを知っているのだろうか? 彼のことを考えなければ、ただ動いているだけ......」(一部略。下記の英語ではそのまま引用)
(I wonder if he knows I have sought out men who would do to me what he did or that they often found me because they knew I was looking. I wonder if he knows how I found them and how I pushed away every good thing. Does he know that for years I could not stop what he started? I wonder what he would think if he knew that unless I thought of him I felt nothing at all while having sex, I went through the motions, I was very convincing, and that when I did think of him the pleasure was so intense it was breathtaking.)

性暴力の被害者は、このように歪(いびつ)になった心の傷からなかなか立ち直れない。ゲイのこの告白は、きっと多くの被害者が感じていることだろう。

でも、加害者にパワーを与えてほしくなかった。それが、私の正直な感想だ。

イエール大学をはじめ出願したトップ大学のすべてに合格したほどの頭脳明晰な女性の人生が、30年前に受けた性暴力のせいで、これだけすさんでしまうのだと伝える貴重な回想録である。また、性暴力の影響が決して消えないのだということも、生々しく教えてくれる。

そこに、本書の本当の価値があるのかもしれない。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story