コラム

集団レイプで受けた心の傷から肥満に苦しむ女性の回想録

2017年12月13日(水)18時00分

自暴自棄になる精神状態は多くの性暴力の被害者が経験している OcusFocus/iStock.

<著名フェミニストの回想録『Hunger』は、少女時代に受けた集団レイプの心の傷がその後の女性の人生をどのように破壊するか、生々しく伝えている>

著者のロクサーヌ・ゲイ(Roxane Gay)は、典型的な「フェミニスト」には当てはまらない。矛盾したフェミニストである自分について書いたエッセイ集『Bad Feminist』がベストセラーになって一躍有名人になった。しかし、ネットでは『Bad Feminist』が売れる前から活躍しており、フォロワーが多い有名人だった。

筆者は『Bad Feminist』は読んでいないが、今年、前大統領夫人ミシェル・オバマの談話を聞きに行ったとき、ゲイが質問役をしていたことから興味を抱いた。

ゲイの回想録『Hunger: A Memoir of (My) Body』で最も衝撃的なのは、12歳のときに受けた集団レイプと、それが彼女の人生に与えた大きなインパクトだ。

ゲイは、当時好きだった同級生の少年から森におびき出され、そこで彼と彼の友だち数人からレイプされた。ハイチ出身の裕福な中流家庭で、「カトリックの良い女の子」として育ったゲイは、加害者の少年よりも自分を責め、自己嫌悪を抱くようになる。

自分の体に対するゲイの拒絶反応は、親元を離れて由緒ある寄宿制私立学校に入学してから、肥満という形で現れた。その心理は、「侵入不可能な、要塞だと感じる必要があった(I needed to feel like a fortress, impermeable)」からだ。その潜在的な欲求にかられ、ゲイはアメリカ独自の高カロリー、高脂質のインスタントフードを食べ続けた。突然体重が増えた娘を両親は案じていろいろな対策を取るが、いったん痩せても、すぐにリバウンドした。

最も太っていたときのゲイの体重は577ポンド(約260キロ)だという。身長も6フィート3インチ(約190cm)なので、アメリカ人男性とくらべても相当大きいほうだ。43歳の現在は、それより軽くなっているようだが、それでもゲイと食べ物、体重との戦いは解決していない。

ネットでゲイの子供時代の写真を見たが、レイプされる前のゲイは、痩せっぽちで、可愛い女の子だった。その少女を見ると、「あのまま大きくなっていたのなら......」と涙が出て来る。

幼いときや若いときに受けた性暴力は被害者の心を深く傷つける。

「自分を忌み嫌うのは、呼吸するほど自然なことになった。あの少年たちは、私をクズ同然として扱った。だから私もクズ同然になった」
(Hating myself became as natural as breathing. Those boys treated me like nothing so I became nothing.)

自分の体を自分の心から引き離そうとし、自暴自棄になるのは、多くの性暴力の被害者が体験していることだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ワールド

イラン上空で米戦闘機撃墜、乗員1人を救助 対イラン

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

米政権、「脱獄不能」アルカトラズ監獄再開へ予算 ア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story