- HOME
- コラム
- ベストセラーからアメリカを読む
- 集団レイプで受けた心の傷から肥満に苦しむ女性の回想…
集団レイプで受けた心の傷から肥満に苦しむ女性の回想録
自暴自棄になる精神状態は多くの性暴力の被害者が経験している OcusFocus/iStock.
<著名フェミニストの回想録『Hunger』は、少女時代に受けた集団レイプの心の傷がその後の女性の人生をどのように破壊するか、生々しく伝えている>
著者のロクサーヌ・ゲイ(Roxane Gay)は、典型的な「フェミニスト」には当てはまらない。矛盾したフェミニストである自分について書いたエッセイ集『Bad Feminist』がベストセラーになって一躍有名人になった。しかし、ネットでは『Bad Feminist』が売れる前から活躍しており、フォロワーが多い有名人だった。
筆者は『Bad Feminist』は読んでいないが、今年、前大統領夫人ミシェル・オバマの談話を聞きに行ったとき、ゲイが質問役をしていたことから興味を抱いた。
ゲイの回想録『Hunger: A Memoir of (My) Body』で最も衝撃的なのは、12歳のときに受けた集団レイプと、それが彼女の人生に与えた大きなインパクトだ。
ゲイは、当時好きだった同級生の少年から森におびき出され、そこで彼と彼の友だち数人からレイプされた。ハイチ出身の裕福な中流家庭で、「カトリックの良い女の子」として育ったゲイは、加害者の少年よりも自分を責め、自己嫌悪を抱くようになる。
自分の体に対するゲイの拒絶反応は、親元を離れて由緒ある寄宿制私立学校に入学してから、肥満という形で現れた。その心理は、「侵入不可能な、要塞だと感じる必要があった(I needed to feel like a fortress, impermeable)」からだ。その潜在的な欲求にかられ、ゲイはアメリカ独自の高カロリー、高脂質のインスタントフードを食べ続けた。突然体重が増えた娘を両親は案じていろいろな対策を取るが、いったん痩せても、すぐにリバウンドした。
最も太っていたときのゲイの体重は577ポンド(約260キロ)だという。身長も6フィート3インチ(約190cm)なので、アメリカ人男性とくらべても相当大きいほうだ。43歳の現在は、それより軽くなっているようだが、それでもゲイと食べ物、体重との戦いは解決していない。
ネットでゲイの子供時代の写真を見たが、レイプされる前のゲイは、痩せっぽちで、可愛い女の子だった。その少女を見ると、「あのまま大きくなっていたのなら......」と涙が出て来る。
幼いときや若いときに受けた性暴力は被害者の心を深く傷つける。
「自分を忌み嫌うのは、呼吸するほど自然なことになった。あの少年たちは、私をクズ同然として扱った。だから私もクズ同然になった」
(Hating myself became as natural as breathing. Those boys treated me like nothing so I became nothing.)
自分の体を自分の心から引き離そうとし、自暴自棄になるのは、多くの性暴力の被害者が体験していることだ。
英王室から逃れたヘンリー王子の回想録は、まるで怖いおとぎ話 2023.01.14
米最高裁の中絶権否定判決で再び注目される『侍女の物語』 2022.07.02
ネット企業の利益のために注意散漫にされてしまった現代人、ではどうすればいいのか? 2022.03.08
風刺小説の形でパンデミックの時代を記録する初めての新型コロナ小説 2021.11.16
ヒラリーがベストセラー作家と組んで書いたスリル満点の正統派国際政治スリラー 2021.10.19
自分が「聞き上手」と思っている人ほど、他人の話を聞いていない 2021.08.10