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ボブ・マーリー銃撃事件をベースに描く血みどろのジャマイカ現代史
そのうえ、ジャマイカ人は謎々のような表現を好む。アメリカ人記者と密告者の会話もこんな感じだ。
―Then get a gun. Or a knife, get something, brethren. (なら、銃を持ち歩きな。それかナイフ、何でもいいから持っておきな)
―Why?
(なんでだ?)
―Because after Tuesday come Wednesday. And what you do on Tuesday change the type of Wednesday that going come to you.
(火曜日の後には水曜日がくるからさ。火曜日にお前さんがやることによって、やってくる水曜日のタイプが変わるってことさ)
こうした表現に加え、多くの視点が出入りする抽象画的なストーリー展開には、英語ネイティブですら「読みにくい」と嘆く。
しかし、いったん慣れると、その読みにくさが魅力に変わる。
私は最初オーディオブックで聴き始めたのだが、半分くらいしか聴き取れなかったので、3章くらい聴いた後で、最初からキンドルで読み返した。そうやってオーディオブックとキンドルを行き来しているうちに読むスピードが上がり、キンドルで読んでいても、登場人物それぞれの個性的な言葉が、異なる楽器のように聞こえるようになる。ここにはとても書けないようなギャングの下品で残酷な台詞ですら、ジャムセッションのソロのように感じられて胸が震える。
言葉の巧みさでは現代詩や文芸小説の領域なのに、歴史小説に加えて犯罪小説やスパイ小説のようなスリル感も味わえるという、これまでのブッカー賞受賞作の中でも極めてユニークな作品だ。
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